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さけずきのふくのかみ
『酒好きの福の神』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに一軒の酒屋があったと。
 ある年の正月のこと、この酒屋の店前(みせさき)にひとりの爺さまが立って、つくづくとその店をながめていたが、そのうち何の得心(とくしん)がいったのか、ウムとうなずいて店の内(なか)へ入って行った。
 「これ、酒をな、一升(いっしょう)くれんか」
 「へい」
と、丁稚(でっち)が一升徳利(どっくり)を差し出すと、その爺さま、その場でいっきに呑(の)みほしたと。
 その呑みっぷりの景色のよさといったら、あまりにもうまそうで、丁稚も思わずゴクリとのどをならすほどだ。
 

 青森県民話【酒好きの福の神】挿絵1挿絵:かわさき えり
 その爺さま、呑みおえると、ホーッと息を吐いて、にこうと笑い、
 「馳走(ちそう)になったな」
というて、出て行った。
 丁稚は銭をもらうのを忘れたと。
 

 店の旦那にあやまりながらこの話をすると旦那は、
 「よいよい、正月早々楽しい話だ。それにしてもそんな呑み方をするご仁(じん)なら、儂(わし)も会(お)うてみたいもんだ」
というて赦(ゆる)してくれたと。
 その年はいつもの年より店が繁盛(はんじょう)して、また次の年の正月を迎えた。
 そしたら、あの爺さまがまた店へ来て、今度は、
 「酒をな、二升くれんか」
という。
 丁稚は昨年(きょねん)の正月に旦那に言われたことを思い出し、
 「旦那さまが会いたがっていたから、奥(おく)へ上(あが)っておくれ」
というと、爺さまは雪靴(ゆきぐつ)をはいたまま奥へ上ったと。
 

 旦那はそれを見てもとがめもせず、丁稚に酒を二升持って来させた。
 爺さまは二升をうまそうに呑みほしたと。
 呑んでいるさまの景色のよさに、旦那はほれぼれとながめたと。
 「酒屋をやっていてよかった、とつくづく感じ入らせてもらいました。あなたほどの呑み手には、初めてお目にかかりました。あなたさまはどこのどなたさまでございますか」
 旦那がたずねると、爺さまはニコーとして、
 「まあよいわい。それより、この十三日(にち)の日(ひ)に酒樽(さかだる)を三つ、店の前に出しておいてくれんか。そうすれば身上(しんしょう)はもっとよくなるぞ」
というた。
 

 さてその十三日の日の朝、旦那はみずから酒樽を三つ、店先へ出して置いたと。
 そうしたら、誰がいつ呑みに来たのか判(わか)らぬうちに、どの酒樽もみんな空っぽになっていた。
 その酒屋はそののち、七代栄えたと。

 とっちぱれ。
 

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