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くものおんがえし
『蜘蛛の恩返し』

― 青森県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 昔、あるところにひとりの兄(あん)さまがあったと。
 ある晩(ばん)げ、天井から一匹(いっぴき)の蜘蛛(くも)がおりてきた。
 
蜘蛛の恩返し挿絵:かわさき えり


 夜、蜘蛛が家に入ってくるのは縁起(えんぎ)が悪いといわれているので、兄さまは、
 「クモ、クモ、今晩何しておりてきた」
といって、蜘蛛を囲炉裏(いろり)の火にくべようとした。そしたら蜘蛛が、
 「兄さま、どうか助けで呉(け)」
というた。兄さま、哀(あわ)れに思って、
 「そんだば、今度から夜でてくるな」
というて、放してやったと。


 四、五日経(た)った晩げ、ひとりのきれいな姉(あね)さまが訪ねてきた。
 「暗ぐなって、行くどご無(ね)ぐなったハデ、泊めて呉(け)。お前さまの嬶(かがあ)にして呉」
 「突然言われても……それに吾(わ)のどごは貧乏(びんぼう)暮らしで食べ物も無(ね)して」
 「それでもよいハデ」
 「ンだら」
って、その姉さま、兄さまの嫁になったと。

 次の日からこの嫁、兄さまが畑仕事に行っている間に、機(はた)を織(お)ってかせいでくれたと。


 その織物(おりもの)は、うすくて、軽くて、虹(にじ)のような艶(つや)があって、例えていえば、天女(てんにょ)の羽衣(はごろも)みたいな、美しい織物であったと。嫁が、
 「これを売ってお金を作って下さい」
というので、兄さまが呉服商(ごふくあきない)へ持って行ったら、高い金で買うてくれた。
 呉服商の主人は、それを殿様へ売ったと。

 そしたら、ある日、殿様の家来(けらい)が兄さまのところへやってきて、
 「千反(せんたん)の織物を織って、お城へ納めよ」
という、難題(なんだい)を持ちこんだ。


 困った兄さまが嫁に話したら、嫁は、
 「千反とはただごとではごえへんが、吾、やってみるハデ、機小屋(はたごや)を作って呉(け)」
というた。機小屋が建ったら、嫁は、
 「吾、機織るどご、決して見ねで呉(け)」
という。
 「毎日三度のご飯は、おひつのまま機小屋の入口に置いといて呉(け)」
という。兄さま、約束したと。

 嫁は次の日から機織りにとりかかった。朝も昼も夜も、キーパタン、キーパタンと機織る音がして、休んだ気配のないまま七日七夜(なのかななよ)が経ったと。


 兄さまは、嫁の体が心配になって、その晩げ、こっそり覗(のぞ)いて見た。
 そしたらなんと、大っきい蜘蛛がおひつに顔を埋め、ご飯を食べながら尻(しり)から糸を出して機を織っていた。
 「アワワワッ」
 兄さまはびっくりして尻をついた。
 機の音が止(や)んで、嫁が悲しそうな顔で機小屋から出てきた。
 「見ないで下さいとお願いしたのに……とうとう見られてしまった」
とつぶやいて、織り上がった千と一反の反物(たんもの)を置いて、どこかへ行ってしまったと。


 嫁は、いつか助けた蜘蛛だったと。
 とっちぱれ。
蜘蛛の恩返し挿絵:かわさき えり

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