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あなほりちょうべえ
『穴掘長兵衛』

― 青森県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、ある村に爺(じ)さまと婆(ば)さまがおったと。
 あるとき二人で大根の種を蒔(ま)いたら、秋になってどこのものより育(おが)ったと。
 爺さまと婆さまが大根を掘(ほ)りに畑へ行ったら、とりわけ一本、今まで見たこともない大きな大根があった。
 二人でいくら引っ張(ぱ)っても抜(ぬ)けないので、穴掘長兵衛(あなほりちょうべえ)に頼(たの)んだと。
 長兵衛は大(おお)大根のまわりを、掘って掘って、七日も掘り続けて、やっと根元まで掘り下げたと。

 
穴掘長兵衛挿絵:かわさき えり
 
 長兵衛は深い穴の底から大声をあげて、爺さまと婆さまに、
 「大根ごと、ひっぱってけろじゃ」
と叫んだ。爺さまと婆さまは、
 「ウンバラショ、ウンバラショ」
と引っ張ったと。


 長兵衛は大根のしっぽにつかまって、だんだん畑の上の方に昇(のぼ)って来た。もう少しで畑の上に出るというところで、大根のしっぽがポキンと折れてしまったと。
 長兵衛は大根のしっぽを握(にぎ)ったまま、まっさかさまに穴の中を落ちて行き、穴の底を突(つ)き破(やぶ)って、極楽を通り抜け、その底の地獄(じごく)まで落ちてしまったと。
 地獄では変な男が上から降(ふ)って来たので、鬼(おに)どんが大さわぎで閻魔(えんま)大王に知らせたと。


 閻魔大王は、長兵衛に、
 「お前はなぜここへ来たのだ」
とたずねた。長兵衛が訳(わけ)を話すと、
 「ここは地獄というところで、お前の来るところではない。早く地上へ帰れ」
という。
 帰れ、といわれたって、どこをどうして帰ったらいいやら。長兵衛が困っていると大王が、小さい玉を三粒(つぶ)とり出して、
 「この玉を一つ飲めば極楽に、もう一粒飲めば穴の中まで、もう一粒飲めば地上に行ける。必ず一粒づつ飲むのだぞ」
といってくれたと。
 長兵衛は、すぐにも地上へ出たいので、三粒一ぺんに飲んでしまったと。

 
 すると、長兵衛の身体が急に軽くなって、どんどん昇って極楽も地上も通り越(こ)し、まだまだ昇って、やがて雲につき上った。
 雲の上にいた雷(かみなり)がびっくりして目をむいたと。

 天上では雷の太鼓(たいこ)係が一人不足して困(こま)っていたので、さっそく長兵衛を太鼓係に使ったと。
 雷は長兵衛に太鼓のならし方を教え、へそから稲(いな)光りを出してみせたと。
 それが面白いとてむやみに太鼓をたたいたら、太鼓の皮が破れて下界に大雨が降ったと。

 
穴掘長兵衛挿絵:かわさき えり
 
 雷が怒(おこ)って追って来たので、びっくりした長兵衛は馳(か)けずり廻(まわ)って逃(に)げたと。

 
 今にもつかまりそうになったとき、雲の切れ目から足を踏(ふ)みはずして、あっという間に下界へ向かって、まっさかさまに落ちたと。
 俺(おら)が命もこれまでか、と思って、ウヘー、ウヒャーと落ちとったら、着物の襟(えり)が木の枝にひっかかった。
 「やれ、助かったぁ」
いうて、あたりを見回すと、どうやら岩木山の麓(ふもと)だということが分かった。
 足をばたばたしていたら、強い風がひと吹(ふ)ききて、長兵衛は飛ばされたと。


 やがてどこかへどかんと落ちてみれば、そこが弘前(ひろさき)のトビタというところで、今の富田(とみた)というところだったそうな。
 
 どんとはれえ。

青森県
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