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いうなじぞう
『言うな地蔵』

― 福井県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
提供 フジパン株式会社

 むかし、ある旅の男が金を使い果(は)たして、峠(とうげ)のお地蔵(じぞう)さんの前で途方(とほう)に暮(く)れておったと。
 腹は空くし、こころ細いし、この先どうしようかと思案していると、目の前を、身なりのいい旅人が通りかかったと。
 男は、いきなり、
 「おい、金と荷物を置いていけ」
というて、泥棒(どろぼう)に早変わりをした。そして、事(こと)のついでに、その旅人を殺してしもうたと。
 あたりには誰もおらん。お地蔵さんが立っているだけだ。
 男は、お地蔵さんに向って、

 「おい、地蔵、今見たことを誰にも言うな」
と、口止めをした。そしたら、お地蔵さんが、
 「わしは言わんが、お前も言うな」
と、しゃべったと。
 男は、びっくりして、その場から逃げ去ったと。

言うな地蔵挿絵:かわさき えり

 殺された旅人の家では、いつまでたっても父親が帰って来ないので、心配しておった。
 あんまり遅(おそ)いので、息子が峠まで迎えに行ったら、お地蔵さんの前で父親が殺されている。
 息子は、泣いて泣いて、泣きあかしたと。
 葬式(そうしき)をすませると、
 「おれは、必ず親の敵討ち(かたきうち)をする」
というて、旅に出たと。

 一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎた。
 あるとき、息子は、ふとしたきっかけで旅の男と仲良くなった。二人は連れだって旅をして、あの峠へさしかかったと。
 お地蔵さんの前でひと休みしたら、息子に気を許した男が、

 「この地蔵は、不思議(ふしぎ)なことに人間の言葉を話すんじゃ」
というた。息子は、
 「石の地蔵さんがしゃべるはずがない」
と、本気にしないでいたら、男はむきになって、
 「いやいや、本当にしゃべったんじゃ」
 「そうかい、では、何てしゃべったや」
 「誰にもいうなよ。実は、三年前におれはここで、ある身なりのいい旅人を殺して金と荷物を取ったことがあるんじゃ。やむにやまれずやったことじゃったが、そのとき、この地蔵に『今見たことを、誰にもいうなよ』というたら、地蔵が、『わしは言わんが、お前が言うな』としゃべったんじゃ。いや、驚いたのなんの。おれは跳(と)んで逃げたよ」
と、うちあけ話をしたと。

 これを聞いた息子は、顔色を変えて、
 「三年前にお前が殺した旅人というのは、おれの父親だ。おれは敵討ちの為に旅をしているんだ。そうと判(わか)ったからには、お前を討って、今日こそ親の無念(むねん)を晴らしてやる」
というがはやいか討ちかかり、親の敵をとったと。
 とどのつまりが、地蔵さんの言うとおりになったと。

 そろけんぶっしゃれ 灰俵(はいだわら)。

「言うな地蔵」のみんなの声

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言うな地蔵(いうなじぞう)

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