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でっちどんのものうり
『でっちどんの物売り』

― 福岡県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところにお店があって、ちとおつむの足らんでっちどんがおったと。
 ある日店の主人が、
 「お前も少しは物売りをおぼえとかないかん年頃になった。町へ行って、これらの品を売ってきてみい」
というて、酢(す)と栗(くり)と柿(かき)と茶を箱に詰(つ)めて、そのでっちどんに渡したと。


 でっちどんは箱を背負うて町へ行った。
 「すっくりかきちゃ」
 「すっくりかきちゃ」
と叫(お)らんで廻(まわ)った。が、町の人は「すっくりかきちゃ」が何のことやらさっぱり分からん。一人も買い手がなかった。
 
でっちどんの物売り挿絵:福本隆男


 でっちどんは店に戻ったと。店の主人が、
 「やけに早く戻(もど)ってきたな。売れ行きは、どうな」
ときくと、でっちどん、
 「ひとつも売れんかった」
というて、箱を下ろした。
 「ま、初めての売り歩きじゃ、しょうがないか。どう言うて売って歩いた」
 「はいー。『すっくりかきちゃ』『すっくりかきちゃ』いうて歩いた」
 「そんなにあわてて言うたら、わしにも何のことやらわからんわい。もっとわかりやすくゆっくり叫(お)らばにゃ。うーむ、お前に沢山(たくさん)の品を持たしたわしが間違(まちご)うたかな。よし、そんでは、この一品(ひとしな)だけ売ってきてみい。今度はゆっくりと叫らぶんだぞ。」
というて、おつむの少し足らんでっちどんに、スッポンを箱に入れて渡(わた)した。


 そのでっちどん、スッポンの入った箱を背負うて、また、町へ売りに行った。
 「ゆっくり言うんだな」
というて、町の入口で、先ず「すーっ」と言い、息が続かなくなって、あわてて駆(か)けて町のはずれへ行き「ぽん」と言うた。
 「ああびっくりした。死ぬかと思った」
顔を真っ赤にして、こういうたと。


 戻りには、思いっきりイキを吸い込んでから町のはずれで「すーっ」といい、また駆けて町の入口に着いてから「ぽん」と言うた。
 やっぱり、誰(だれ)も買う人はいなかったと。
 

 店に戻ると主人が、また売り方を聞いた。でっちどんが話し終えると、主人は頭をかかえたと。
 「お前はこの店にいても一人前になれん。お前向きの仕事が他にあるかもしれないから、家に帰って親と、とくと話し合いなさい」


 こういうて、、少しの金子(きんす)と、小魚(こざかな)を入れた箱を渡した。
 でっちどんが店を出ようとしたら、主人が
 「それはお前の親への土産だ。が、とちゅうで売れるようなら、売って銭にしてもよい」
というた。
 おつむの少し足らんでっちどんが歩いていると、村の鎮守様(ちんじゅさま)があった。拝(おが)んでいると鎮守様の屋根に鳩(はと)がいて、水場(みずば)にはひよ鳥が、木の枝には烏(からす)が止まっていた。
 でっちどんが、小魚の入った箱をかつぎなおしたら、鳥が「かお、かおー」と啼(な)いた。

 
でっちどんの物売り挿絵:福本隆男

 でっちどんが喜んで、
 「なんびきいるかい」
と聞いた。そしたら鳩が「ごろっこー、ごろっこー」と啼いた。


 「五・六匹だね、わかった」
というて、箱から小魚を出したら、一匹が落ちたと。魚についた泥(どろ)をはらっていたら、ひよ鳥が「ひーろたひろた」と啼いた。でっちどんが、
 「水で洗えばだいじょうぶだよ」
というたら、ひよ鳥と鳩と烏がバサバサッとどこかへ飛んで行ったと。
 おつむの少し足らんでっちどん、
 「なんだ、ひやかしかい」
こういうたと。
 
 それぎんのとん。

「でっちどんの物売り」のみんなの声

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