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さるのよめ
『猿の嫁』

― 岐阜県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかしあったと。
 あるところに、爺(じ)さまと三人の娘がおった。爺さまは毎日毎日、山の畑を耕していた。あるとき、あんまりくたびれて、せつないから、
 「だれか、この畑耕(たがや)してくれたら、娘三人おるから一人やるのになぁ」
と、一人言(ひとりごと)をいった。そしたら、山の猿(さる)がやってきて、
 「爺さま、爺さま、娘一人くれるなら、おれがやる」
といって、あっという間に、山の畑を耕してしまった。

猿の嫁挿絵:かわさき えり
 さあ、爺さまは困った。家に帰っても心配でたまらん。とうとう寝込んでしまった。朝になっても起きられん。そしたら、一番目の娘がやってきて、
 「爺さま、爺さま、早く起きて御飯(ごはん)食べまいか」
といった。爺さまは、
 「実はなぁ、山の猿が畑を耕してくれたんで、娘一人嫁(よめ)にやる約束をしてしまったが、お前、猿のところへ嫁に行ってくれないか」
というと、

 「だれが猿のところへなんか嫁に行くか」
 一番目の娘は枕を蹴(け)飛ばして行ってしまった。
 今度は二番目の娘がきて、
 「爺さま、爺さま、早く起きて御飯食べまいか」
といった。爺さまはまた、
 「実はなぁ、山の猿が畑を耕してくれたんで、娘一人嫁にやる約束をしてしまったが、お前、猿のところへ嫁に行ってくれないか」
というと、二番目の娘も、
 「だれが猿のところへなんか嫁に行くか」
 やっぱし、枕を蹴飛ばして行ってしまった。
 次に三番目の娘が来て、
 「爺さま、爺さま、早く起きて御飯たべまいか」
といった。爺さまは、だめだろうと思いながら、
 「実はなぁ、山の猿が畑を耕してくれたんで、娘一人嫁にやる約束をしてしまったが、お前、猿のところへ嫁に行ってくれないか」

というと、三番目の娘は、
 「そうか、そうか、あたしが猿のところへ嫁に行くから、爺さまは心配せんで御飯食べれ」
 爺さまは喜んで喜んで、御飯を腹いっぺぇ食った。

 そしたら、娘が、
 「嫁に行くのに、臼(うす)をくれ」
というので、爺さまは、さっそく臼を持ってきた。そこへ猿が娘を迎えにやってきた。猿は嬉しくてたまらんもんだから、嫁入り道具の臼を背負(せお)うと、娘をつれて、チャッチャ、チャッチャと歩いて行った。
 山に入ると、谷川のところに、きれいな桜が咲いている。娘が、
 「あの桜、一枝ほしいなぁ」
というと、猿は、
 「ここで待ってろやー」
といって、サッサと木に登った。

 「これか」
 「もっと上」
 「これかー」
 「もっと上ー」
 「これかー」
 「もっと上ー」
と、だんだん木の先の方へ登ったら、桜の枝がポキッと折れて、猿は川に落ちて、流れて行ってしまった。それを見ていた娘は、

 〽 猿、猿、下になぁれ
    臼、臼、上になぁれ

 といった。
 娘は家に帰って、幸せに暮らしたと。

 しゃみ、しゃっきり。

「猿の嫁」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

親の勝手な約束で猿という異質な生活を強いられる娘は可哀想じゃないの? 猿が事故で死んで良かった。( 50代 )

驚き

民話を残す取り組みに関するNHKの番組で、このお話(に似たお話)を知りました。私は、娘(人間)は冷酷で勝手だと感じたのですが、実際にこのお話を語られた明治生まれの女性はそんなふうには感じておられなかったとのこと。今では想像ができないくらい、昔は「お嫁さん」にとって理不尽で苦労の多い結婚生活が多かったようで、そんな中、こういうお話を慰めにしていらした女性も多かったのだそうです。カラオケも贅沢ランチも推し活もない時代。女性たちは民話を通してストレスを発散されていたんだなと、驚き感心しました。( 40代 / 女性 )

驚き

残酷で驚きました。 このお猿さん悪い猿のようには思えないし、、 教訓があるとすれば、どんな教訓なのか知りたいです。( 30代 / 女性 )

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驚き

三女の狡猾さに思わず笑ってしまった。猿は少し可哀想だけど( 20代 / 男性 )

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