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かめのおんがえし
『亀の恩返し』

― 岐阜県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 昔、ある家の亭主(ていしゅ)が、
 「頭が痛(いた)い、頭が痛い」
といって寝(ね)ていると、近所の人が来て、
 「亀の生血(いきち)を飲んだら治るだろう」
と、教えてくれた。

 そこで、家の者が八方手配りして、海亀(うみがめ)を一匹捕(と)って来たそうな。


亀の恩返し挿絵:かわさき えり
 
 奥さんが家の者にその海亀を持たせて亭主の寝床(ねどこ)へ行き、
 「ようやく海亀が手に入りました。さっそく生血を採(と)りますから、頭の痛いのはじきに治りますよ」
というた。

 
そしたら、寝床でふせっていた亭主は、
 「命の惜(お)しいことは人間も亀も一緒だ。見ればその亀、目から涙(なみだ)を流しとる。あわれじゃ。その亀は逃(に)がしてやってくれ」
というた。奥さんは、
 「せっかくの亀ですが、そうおっしゃるのなら」
というて、家の者と海辺(うみべ)りへ行って、その海亀を放してやったと。
 海亀はゾロリ、ゾロリ歩いて、海の中へ潜(もぐ)って行ったと。

 その日から亭主の頭痛は、うす紙をはぐようにゆっくりゆっくり治っていき、やがて、床上(とこあ)げしたと。


 それから何年も経(た)って、亭主は用事で四国へ行くことになったと。
 船に乗って海を渡(わた)っていたら、沖(おき)で船が進まなくなった。びくともしない。
 すると船頭が、
 「この船に乗っている者の中に、海の主(ぬし)に見こまれた者があるようだ。それで船が動かんのだから、だれが見こまれているのか、試しにめいめい手拭(てぬぐい)でも何でも出してくれ」
という。

 そこで一同が手拭を出し、船縁(ふなべり)から海へ落とした。すると、ほかの人の手拭は沈(しず)まないのに、その亭主の手拭だけが沈んでしまったと。


 船頭は、
 「どうやら、お前さんが主に見込(こ)まれているようだ。悪いがこのままお前さんをこの船に乗せておくことは出きん。嫌(いや)でもなんでもここで船から下りてもらわにゃならん」
というて、亭主の腕(うで)をとったと。

 亭主があとじさりすると、他の乗客が亭主の周りにじりじりと寄(よ)ってきて、船縁へつめ寄った。
 亭主は、船にしがみついても殺(ころ)され、海に飛び込んでも死ぬ、これがおれの運命か、と覚悟(かくご)を決めて、自ら海に飛び込んだと。

 そしたらなんと、一度は海に沈んだもののすぐに浮(う)いた。大きな岩のようなものの上に乗っかって、そのまま海岸まで無事に運ばれたそうな。
 大きな岩のようなものは、大きな海亀だったと。
 命をたすけてもらったあの時の海亀が恩報(おんほう)じに運んでくれたのだったと。

 
亀の恩返し挿絵:かわさき えり

 亭主を乗せていた船は、それからすぐに船火事がおこって、乗っていた者は皆(みな)死んでしまったそうな。
 
 しゃみしゃっきり鉈柄(なたづか)ぼっきり。

「亀の恩返し」のみんなの声

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