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おおかみとひきゃくとなくこ
『狼と飛脚と泣く子』

― 広島県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、むかしあったんだって。
 ある山の中に一匹(いっぴき)の狼(おおかみ)がいたんだって。
 ちょうど今日みたいな寒(さむ)い夜にね、狼は腹を空(す)かして、
 「どこかに夜遊(よあそ)びしているやつはいねかあ、とって食うぞう」
て、獲物(えもの)をさがして歩いたんだって。

 だけど、リスさんは木の幹(みき)の洞穴(ほらあな)で、ドングリを食べて腹いっぱいになって、お母さんリスとまあるくなってネンネンしていたし、
 ウサギさんは草を食べて腹いっいになって、木の根っこにある洞穴で、お母さんウサギとくっついてネンネンしていたし、
 シカさんも葉っぱを食べて腹いっぱいになって、藪蔭(やぶかげ)でみんなと一緒にネンネンしているし、
 こんな夜中に遊んでいるものは、だあれもいなかったんだって。

狼と飛脚と泣く子挿絵:かわさき えり
 狼は、えさをさがして歩きまわったぶんだけ、ますます腹がへった。
 「しょうがない、里へ行ってみるか」
 おう、おう、って吠(ほ)えながら山から里へ下りて来たんだって。

 狼が里の道を歩いていたら、
 たったったったったったっ
って、何かが走って近づいてくる音がした。よおっく見たら、飛脚(ひきゃく)だった。
 飛脚というのはね、今の郵便配達(ゆうびんはいたつ)、手紙を届けてくれる人のことだよ。
 狼は、その飛脚を呑(の)んでしまおうと思って道いっぱいに口を大っきく開けて待ったって。飛脚は、そんなこととは知らないから、真っ暗(くら)の道を、たったったったったったって走って来て、狼の口の中にスポッと入っちゃった。
 入ってもまだ走ってね、狼の腹の中、たったったったったったって下りて行って、お尻(しり)の穴からスポーンと出て行ってしまったって。
 そしたら狼、
 「せっかく食うたのに、すぐにウンチになって出てしもうた。腹アへったなあ」
って、言ったって。

 腹へった、おう、おう、って吠えながら歩いて、ある家のそばを通ったら、そのうちの子供(こども)が泣きだして、お母さんが、
 「そんなに泣いたら、あの狼にやってしまうよ」
と言ったって。狼は、これはよい事を聞いた。あの子供が食える、と思って喜(よろこ)んだって。
 そしたら、子供の泣き声がぱったり止(や)んだ。お母さんが、
 「こんなききわけのいい子を、狼なんかにやらん、やらん」
て言ったって。
 狼は、がっかりして行ってしまったんだって。

  むかしこっぷり、どじょうの目。

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狼と飛脚と泣く子(おおかみとひきゃくとなくこ)

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