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きつねのさかなうり
『狐の魚売り』

― 広島県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 
 昔、山奥(やまおく)に二匹(にひき)の夫婦狐(めおとぎつね)が棲(す)んでいたと。
 ある日、夫狐が、
 「毎日毎日、同じものばかり食べているのは面白うないなぁ。一度でいいから、人間が食べていた小豆飯(あずきめし)を食うてみたいものだな」
というたら、女房(にょうぼう)狐も、
 「ほんと、里の人間たちがおいしそうに食べていたのが目に焼きついて、あら、思い出しただけでよだれが出てきた」
と、食いたがったと。


 そこで、人間の里へ出て小豆と餅米(もちごめ)をとろう、ということになったそうな。夫狐と女房狐は、
 「何に化けたらよかろ」
 「この辺は山里だから、海の幸がありがたがられるのではないかしらん」
 「そんでは、お前はタコに化けてくれ、俺(おれ)は魚売りになるから」
と相談ぶって、女房狐は大きなタコに、夫狐は魚売りに化けたと。
 
狐の魚売り挿絵:かわさき えり


 山を下りて、人間の山里へ出て、ある家の前へ立った。
 「おい、いいか」
 「あいよ」
と、声かけあって、
 「こんにちわぁ、タコはいりませんかぁ」
というと、奥さんが出てきた。
 「魚屋さん、見かけない人ね。まぁ、立派(りっぱ)なタコだこと。おいくら」
 「へい、小豆三升(あずきさんじょう)、餅米三升」
 「あら、お金ではないのね」
 「へい、欲(ほ)しいというのがありまして」
 「そう、いいわ、もらうわ」
というので、奥さんにタコを渡(わた)し、小豆三升、餅米三升をもらって、急いで帰ったと。


 奥さんは、買ったタコの首を縄(なわ)でしばり、囲炉裏(いろり)の上へつるして、外へ他の用を足しに出て行った。女房狐は、その間に縄からスポッと抜(ぬ)けて、急いで山へ帰ったと。
 山では夫狐が小豆飯を炊(た)いて待っていたので二匹の狐は大喜びで食うたと。
 三升の小豆と餅米を、何日もかけて食いあげて、しばらくたったらまた、食いたくなった。そこで前のとうりに化けて山を下り、この間の家へ行ったと。


 「おい、いいか」
 「あいよ」
と、声かけあって、
 「こんにちわぁ、タコはいりませんかぁ」
というと、奥さんが出てきた。
 「この前買ったタコは、囲炉裏の上に下げておいたら、猫(ねこ)にとられちゃったわ」
というた。
魚売りに化けた夫狐は、おかしいのをこらえて「それは、それは」というた。


 タコに化けている女房狐は、吹(ふ)き出したいのをこらえていたら、赤くなった。そしたら奥さんが、
 「あらまぁ、この前より生きのよさそうなタコね」
というた。
 「おいくら」
 「へい、小豆三升、餅米三升」
 「いいわ、もらうわ」
 奥さんは、買ったタコを、今度は戸棚(とだな)の中にしまったと。


 夫狐は、小豆三升、餅米三升のお代をもらって、急いで山へ帰って行った。で、小豆飯を炊いて待っていたけど、女房狐が帰って来ん。心配になって、また、人里へ下りてきた。で、別の家へ忍(しの)び入り、法螺貝(ほらがい)を盗(ぬす)んでから修験者(しゅげんじゃ)の姿(すがた)に化けて、タコを買った家のあたりへ行き、法螺貝をプープー吹いては、
 「このあたりに狐狸(こり)の化けたはおらぬかぁ」
とおらんで、また、プープーと吹いて歩いたと。
そしたら、戸棚の中の女房狐が、
 「おりはしますが、でーられん、出られん」
と、こたえたと。

 
狐の魚売り挿絵:かわさき えり

 それを聞いた家の者が、小首を傾(かし)げながら戸棚を開けると、狐がとび出して、家の外へ逃(に)げて行った。
 夫狐と女房狐は連れだって山へ帰り、小豆飯を喜んで食うたと。
 
 けっちりこ。
 
 

「狐の魚売り」のみんなの声

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驚き

狐頭良すぎ!!

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