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こうしんまちのなぞ
『庚申待ちの謎』

― 兵庫県美方郡新温泉町田中 ―
話者 田中 忠雄
採集・再話 谷垣 桂蔵
再々話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
資料 全国昔話資料集成27  但馬昔話集144
   谷垣桂蔵編 岩崎美術社
提供 フジパン株式会社

 昔、あるところに貧乏(びんぼう)な爺(じい)さんがあった。
 爺さんの田圃(たんぼ)へ行く途中(とちゅう)の岐れ道(わかれみち)のところに、庚申様(こうしんさま)が祀(まつ)られてあった。
 庚申様は干支(えと)のひとつ庚申(かのえさる)のことで、六十一日目毎(ごと)に巡(めぐ)ってきて、性(しょう)の悪い者をこらしめて下さるありがたい神様事(かみさまごと)の石塔(せきとう)だと。

 
庚申待ちの謎挿絵:福本隆男

 爺さんは、田圃の行き帰りには必ず、この庚申様に掌(て)を合わせていたと。
 爺さんの田圃は手入れがよくて、どこの田よりも米が沢山(たくさん)とれたと。


 村の欲深(よくぶ)か庄屋(しょうや)はこの田がうらやましくてならない。どうにかしてその田を我が物にしたかったと。
 あるとき、庄屋は爺さんに、
 「爺や、われぁ、わしの田ぁ、みんな欲しいたぁ思わんか。わしが出す三つの謎(なぞ)ぅ解(と)いたら、わしの田ぁみんなやるがどうだ。一つでも解けなんだら、爺の田ぁわしがもらう」
というた。
 「庄屋さん、そげなこと受けられん。俺ぁ学がなぇだけぇ、どうそ堪(こら)ぇて呉(く)れんなはれ」
 「われぁこれまで、わしがおだやかにあの田を売れ、いうても、言うこと聞かなんだけぇ、今度(こんだ)ぁ承知(しょうち)できん。時期ぁ今度の庚申さんの晩(ばん)だ」
 いやもいいもない。そういうことになったと。


 爺さん、困って困って、毎日の庚申様に掌を合わせる時間が、長くなるばかりだと。
 そのうちに庚申さんの晩になった。
 爺さんが困っていると、外から呼ぶ声がした。
 いよいよか、と思うて、しぶしぶ出てみると、見たことのない人だ。どうも庄屋のつかいではないらしい。
 顔じゅう髭(ひげ)だらけの大きな男が、
 「爺さん、今夜ぁわしの供(とも)して次の宿場までついて来い」
と言うた。
 爺さん、思わず畏(かしこ)まって、
 「はい」
と言うた。


 「婆(ばあ)さんや、庄屋さんには、実はこういう理由(わけ)で、今夜ぁ行けんだけえ、こん次の庚申さんまで待って呉(く)んなはれと、断(ことわ)り言いに行ってくれ。」
 と言うて、爺さんは大男について行ったと。
 
庚申待ちの謎挿絵:福本隆男


 夜道(よみち)を歩いていると、遠く方で犬が吠(ほ)えた。大男は、
 「おう、夜中のケンが鳴くのう」
というた。爺さんは“夜中のケン”とは犬のことか、と覚えた。
 また歩いて、歩いて、歩いていると、夜明けが近づいて鶏(にわとり)が啼(な)いた。大男は、
 「もう、夜明けのケエが啼くのう」
というた。爺さんは“夜明けのケエ”とは鶏のことか、と覚えた。


 また歩いていると、夜が明けた。お陽さまが昇(のぼ)って、草葉(くさば)の朝露(あさつゆ)がキラキラ光った。大男は
 「朝の白玉(しらたま)が光るのう」
というた。爺さんは、朝露のことを“朝の白玉”とはきれいな言い方なさる、と、これも覚えた。そしたら、大男が、
 「爺はもう帰れ」
というた。
 爺さんは畏まって
 「はい」
というて戻(もど)ったと。道々(みちみち)
 「なるほどなあ、偉(えら)いお人は難(むずか)しい事ぅ言わっしゃる。夜中のケンは犬、夜明けのケエは鶏、朝の白玉ぁ朝露のことだ」
と、くり返し、くり返しながら家に帰ったと。


 それから、また、庚申様に掌を合わす毎日が続いて、六十一日が巡って来た。約束の庚申さんになったと。
 爺さんが、怖ごわ庄屋の家へ行くと、庄屋、
 「おう、よう来た。爺や、われぁ、さぞかしこの陽を待ちわびていたろうな。なにせ、わしの田圃全部、爺のもんになるかも知れない日だからな。フェフェフェ。
 今日は長老(ちょうろう)を三人、証人(しょうにん)として呼んどいた。」
というた。

 
庚申待ちの謎挿絵:福本隆男

 その三人の長老が側(そば)に座り、謎解(なぞと)きが始まった。庄屋が問題を出し、爺さんが解く。
 「まず、やさしいのからいくぞ。
 夜中のケンは何だ」
 「へえ、犬のことでございます」


 「むむっ、ち、ち、ちとやさし過ぎたのうーん。次、夜明けのケエは何だ」
 「へぇ、夜明け前の鶏のこと」
 「むん、おのれ、で、では最後の謎じゃ。これは難しいぞ。朝の白玉、何だ。」
 「へえ、朝露のことだ」
 爺さん、三つの謎、簡単(かんたん)に解いた。
 三人の証人がいるので、庄屋はこの勝負、無かったことに出来なくなった。
 爺さんは、約定(やくじょう)通り庄屋の田圃、全部もろうて、たちまち長者となった。
 庚申さんの晩に来た大男ぁ、ありゃぁ庚申様が助けに来て呉れなさったに違(ちが)いねえ、と思うて、庚申さんの好きな花ぁ揃(そろ)えて、庚申さんの好きな牡丹餅(ぼたんもち)供えて、末永く祀ったと。
 
 いっちこ たあちこ。

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