― 石川県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社
とんとむかし。
あるお寺に、たいそう鮎(あゆ)の好きな和尚(おしょう)さんがあったと。
ところが、お坊(ぼう)さんは魚や肉を食べてはいけないことになっていたから、和尚さんはいつも、小僧(こぞう)さんに隠(かく)れてアユを食べていた。
ある日、和尚さんがアユを食べていたら、小僧さんに見られてしもうた。小僧さん、
「和尚さん、それは何や」
ときくと、和尚さんは、
挿絵:かわさき えり
「これは、なんじゃ、その、そうそう、カミソリというもんじゃ。ほれ、よう光っとるじゃろ」
と、うそをついた。
次の日、和尚さんは馬に乗って法事(ほうじ)に出掛(でか)けたと。小僧はそのうしろから和尚さんの袈裟(けさ)を持ってついて行った。すると、途中(とちゅう)に川があって、たくさんのアユが泳(およ)いでいた。小僧さんは大声で、
「和尚さん、和尚さん、ほら、川ん中にカミソリが泳いどる」
と言うた。そしたら、和尚さんは困(こま)って、
「小僧、見ること聞くこと、何でもしゃべらんもんや、だまってついてこい」
と、しかりつけて、さっさとそこを通り過ぎたそうな。
また少し行くと、強い風がヒューッと吹(ふ)いてきて、馬のくらにつけた和尚さんの編(あ)み笠(がさ)が、吹き飛ばされてしもうた。
だんだん陽(ひ)が照(て)ってきたので、和尚さんが編み笠をかぶろうとしたら笠がない。きょろきょろさがしてみたが見つからん。
「小僧、小僧。わしの編み笠を知らんか」
「編み笠なら、さっき風で道に落ちよりましたがな」
「道に落ちたら、なぜ早く言わん」
「見ること聞くことしゃべらんもんや言うから、おら黙っとった」
と、小僧さんが言うと、和尚さんは、
「落ちたもんは、何でも拾(ひろ)うもんや」
と、またまた小僧さんをしかりつけた。
また少しいくと、今度は和尚さんの乗っていた馬が、クソをボタボタと道に落とした。
小僧さんは、手に持っていた和尚さんの袈裟をひろげて、馬のクソを拾い受けた。
「和尚さん、和尚さん、ほれ落ちました」
と見せたら、和尚さんが腹を立てた。挿絵:かわさき えり
「何でこんなもんを拾うんや。しかも、それは、わしの袈裟ではないか」
と、どなりつけた。そしたら小僧さんが、
「落ちたもんは何でも拾うもんや、言うから、おら、拾うただけや」
と言うた。
和尚さん、身から出た錆(さび)で、何も言えんかったと。
それきりぶっつりなんば味噌、あえて食ったら辛(から)かった。
民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。
「感想を投稿する!」ボタンをクリックして
さっそく投稿してみましょう!
むかし、ある山家に年老いた飼犬がおったと。ある日、犬が家の前庭で寝そべっていると、家の者が、「おら家の犬も年をとって、ごくつぶしなったもんだ。皮でも剥いでやるか」と話しているのが聞こえた。
むかし、あるところにお爺さんとお婆さんがおった。あるとき、隣から餅を七つもらった。夜も更けて、天井にぶら下げたランプの下で、餅を盛った皿を真ん中に、お爺さんとお婆さんが向かい合って座っていた。
「鮎はカミソリ」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜