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ふるやのもり
『古屋の漏り』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
提供 フジパン株式会社

 むかし、山奥の家で、爺さまと婆さまが、一匹の馬を飼っておった。
 ある雨がざんざ降りの夜に、虎がやってきて、馬をとって食おうと馬小屋にしのびこんだ。
 家の中では、爺さまと婆さまが、
 「婆さま、お前、世の中で一番おっかねぇもんは何だ」
 「そりゃぁ、虎だ。世の中で虎が一番おっかねぇ。爺さまは、何がおっかねぇ」
 「こんな雨のふる夜は、虎よりか”古屋(ふるや)のもり”がなによりおっかねぇなぁ」
と話しておった。
 それを聞いた虎は、
 『この世で、おれさまよりおっかねぇ”古屋のもり”ちゅうもんがいるのか、こうしちゃぁおられん』
 と、そろりそろり逃げようとしたと。
 

 古屋の漏り挿絵:かわさき えり
 すると、ちょうどその晩、馬泥棒も馬を盗みに来ておって、馬小屋の天井にしのびこんでいたんだが、逃げ出したのが、てっきり馬だと思うて、その背にとび乗った。
 さぁ、虎はたまげた。
 ”古屋のもり”につかまったと早合点(はやがてん)して、どうにか振り落とそうと、とびはね、とびはね逃げ走った。
 馬泥棒は馬泥棒で、落とされてなるものか、と、ぎっちりしがみついていたんだと。
 

 そのうちに夜が明けはじめて、あたりが明るくなってきたら、今度は、馬泥棒が魂消た。
 「ぎゃ、馬じゃねがった。と、虎じゃぁ。こりゃぁおおごとだぁ、く、食われちまう」
 何とかせにゃぁと虎の背で思案していると、行く手に木の枝が突(つ)ん出ているのが見えた。
 馬泥棒は、しめたとばかりにとびついた。
 ところが、木は枯木だったと。パリッと折れて、木の根っこにあいていた穴に落ちてしもうた。
 虎は、やっとのことで”古屋のもり”が離れたから、ほっとして歩いていると猿に出合うたと。
 そこで虎が、おっかなかったこれまでのことを話したら、猿は、
 「そんなもん、いるはずがねぇ」
と本気にしない。
 虎は猿を馬泥棒の落ちた穴へ連れていった。
 

 猿は、暗い穴の中をのぞきながら、
 「古屋のもりは、おれがつかまえてやる」
と、長いシッポを穴の中にたらした。
 そうしたら、穴の中にいた馬泥棒は上から綱がおりてきたもんだから、
 「これは助かった」
と、しっかり綱につかまったと。
 猿は、下から引っ張られたので、穴の中に落ちそうになった。
 あわてて
 「古屋のもりにつかまった。助けてくれ―」
とたのんだが、虎は、
 「おれの話を信じなかった罰だ、ゆっくりつかまえてこいよ」
 

 と言い残して、どこかへ行っちまったと。
 後に残された猿は、顔をまっ赤にして、どたばたもがいていたと。
 そうしたら、しっぽが、ボッチリちぎれてしもうたと。
 猿の顔が赤くて、しっぽが短くなったのはそれからだって。

 どっとはらい 

「古屋の漏り」のみんなの声

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古屋の漏り(ふるやのもり)

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