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いぬとおおかみ
『犬と狼』

― 岩手県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 むかし、ある山家(やまが)に年老いた飼犬がおったと。
 ある日、犬が家の前庭(まえにわ)で寝そべっていると、家の者が、
 「おら家(え)の犬も年をとって、ごくつぶしなったもんだ。皮でも剥いでやるか」
と話しているのが聞こえた。犬は、
 「こらぁ、おおごとだぁ」
と、山の狼(おおかみ)のところへ相談に行った。
 「狼どん、なぞすべえ」
 「ふん、そんなこたぁわけない。噛みついてやれ」
 「まさか。ご主人を噛むなんて、そんなこたぁ出来ん」
 「やれやれ、己(おのれ)が殺されかかってるというのに」

犬と狼挿絵:かわさき えり
 「なんぞ、別の思案(しあん)はないじゃろか」
 「うーん。そんじゃ、こんなのはどうだ。お前の飼主は、山の畑へ行くときにいつも赤ん坊をカゴに入れて行っとるじゃろう」
 「うん。嬰児籠(えじこ)に入れとる」
 
※嬰児籠:世話が出来ないときに赤ん坊が這い回らない様にする育児用の籠。藁で筒状にしたもので、木や竹製のものもある。

 「その嬰児籠を、明日おれがさらってやる。お前は吠(ほ)えておれを追いかけてこい。せば、おれは赤ん坊を草の中さ置いて逃げる。お前が手柄(てがら)をたてれば、いつまでもあの家さいられるじゃろうて」
 「ありがたい。せば、そうしてくれるか」
 犬は喜んで家さ戻ったと。
 
 次の朝、家の者が赤ん坊を入れた嬰児籠を畑の脇へ置いてかせいでいたら、狼が来てさらって行った。
 「あれれぇ、赤ん坊が」
 「狼、こん畜生(ちくしょう)、なにするだ、待てえ」
と、夫は鍬(くわ)を投げたり、石を投げたりして追いかけた。が、狼は早や、森の中へ消えてしまった。女房がへなへなっとしゃがみこんで泣きわめいていたら、犬がワンワン吠えて追いかけて行った。
 狼は約束通り、赤ん坊を草の上に置いといてくれたと。犬は赤ん坊を連れ戻った。
 家の者は、
 「この犬はこの児の助け親だ」
と言って、大層(たいそう)喜んだと。

 それから二、三日経(た)ったころ、狼が犬のところへやってきた。
 「やあ狼どん。あのときは世話になった。おかげで皮を剥されんですんだ。ありがたかった」
 「よかったな。ところで、あそこにいる鶏(とり)の大きい方をおれに呉(く)れろ」
 「あれは……いや、だめだ。家のだもの」
 「ふん。そんなら、お前が明日、山へ来(こ)う」
 狼は怒って森へ帰って行ったと。犬が、
 「狼どんは、おれを捕(と)って食うつもりだな」
と、溜息(ためいき)をついていたら、そこへ飼猫が来た。
 「今の見ていた。助太刀(すけだち)するから、明日一緒に山へ行くべ。心配いらね」
と言ってくれたと。
 山では狼が、岩屋(いわや)に棲(す)む鬼のところへ行って、
 「恩(おん)知らずの犬を捕って、一緒に食うべ」
と、誘ったと。

 次の日、狼と鬼は、山の窪(くぼ)みにひそんで犬が来るのを待ちかまえていたと。
 そうとは知らない犬と猫は、連れだって山に行き、窪みに差しかかった。窪みでは狼が、
 「そろそろ来るぞ。鬼どん、お前(め)、犬を捕(つかま)えてくれろ」
と言ったら、鬼は、
 「よし」
と言って、生つば呑(の)みこんで、耳をぴくぴくさせた。
 そしたら、猫が、
 「犬どん、犬どん。あそこの窪みのところを見てみい。ぴくぴく動いとるのがいる。ありゃあネズミに違いねえ。おれ、あれを捕って腹ごしらえするから、ちょっくら待っていてくれろ」
と言って、向こうから忍び寄って、ピクピクしているものに飛びつき噛(か)み切ったと。
 さぁ、鬼はびっくりしたのなんの。
 「痛、痛たたぁ。狼どん、こりゃぁわしもかなわん」
と言って、あとも見ないで逃げて行ったと。
 そしたら、狼も、
 「鬼どんがかなわねなら、おれもかなわん」
と言って、鬼のあとを追って逃げて行った。

犬と狼挿絵:かわさき えり
 犬と猫は、しまいまで仲よくこの家に飼われたと。

  どんとはらい。

「犬と狼」のみんなの声

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犬と狼(いぬとおおかみ)

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