※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。音声が再生されない場合はこちらをご覧ください。

やまんばとわらし
『山姥と童』

― 岩手県 ―
再話 平野 直
再々話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むがし、むがし。
 あるどこに童(わらし)いで、暮(く)れ方に鰯(いわし)焼いでいだど。爺(じ)と婆(ば)もまだ山から帰って来ねぐて、山の方(ほ)さ向かって、
 「鰯コ焼げだぞぉ。早よ来(こ)ぉ」
と叫(さか)んだ。
 したれば、「おう」どて、山から山姥(やまんば)がとんで来だ。して、
 「なんだ、招(よ)ばれ甲斐(がい)もない。鰯コってこればかりか。あるだけみんな出して焼け」
って言っだど。童、まごまごしていだら、
 「早よ焼かねかぁ、焼かねなら、お前(め)焼いで食うどぉ」
と言うた。

 
山姥と童挿絵:かわさき えり

 童、吃驚(どて)して、逃げ出したが手もなく山姥に追(ぼ)っつかれてしまった。川岸の松の木さ登ったら、山姥、
 「お前(め)、どっちの枝(えだ)からあがったぁ」
ときいた。童、
 「こっちの川さのぞんだ方の枝コからあがっだ」
って、枯枝(かれえだ)の方教えだ。

 
 山姥、その枯枝のぼってきだど。したら、枝コァ、バリンと折れて、川の中さ落ちて流れていった。
 童、松の木から下りて、逃げ出しだ。山の中さ入っていったら、灯(あかり)がペカーと見えた。

 童がその家さ行ってみたら、その家は山姥の家だっだど。山姥はまだ帰って来てねぐて、炉(ろ)には煮(に)え湯鍋(なべ)がかかり、餅(もち)焼き網(あみ)には、餅が焼きかけてあった。
 童はその餅をみんな食うてしまい、かわりに、平(たいら)な石コ網の上さ置いておいた。炉のそばには酒樽(さかだる)があって、たぽたぽと酒鳴りがしたので、それも飲んで、かわりに小便を入れておいたど。

 
 表でどたどたっず音がしてきだ。
 童、いそいで天井さ隠(かく)れたど。
 山姥は身体からぬれしずくたらしたらし戻(もど)ってきて、
 「ア、ひどい目にあった、人間の童っちゅうのは悪智恵(わるぢえ)コ働かせるもんだ」
というて、炉さあたり、餅焼き網の上の餅をポイッと口さ放りこんだ。そのとたん、
 「あちちち」
っていうて、口と手、やけどしてとびあがっだど。

 
 「あれぁ今夜はまた、なんたら妙(みょう)なことばかりある晩(ばん)だべ。いつの間にか石餅になってる。口直しするべ」
ど言って、山姥、酒樽の酒、がぶがぶって飲んだけァ、
 「なんだァこの酒ァ。小便臭(くさ)くてかなわね」
ど言うて、吐(は)き出したど。
 童、天井からその様子をながめながら、干(ほ)してあった栗(くり)コ噛(かじ)った。カリカリって音したら、山姥、天上見あげで、
 「なんたら今夜、ねずみどァ栗コ噛る」
と気にかけだ。

 
 童、栗コ食い過(す)ぎて、腹(はら)コふくれて、大きな屁(へ)コ、ポンとたれた。したら山姥ァ、
 「あや、雷(かみなり)様だ」
というて、石の唐櫃(からびつ)の中さ、あわててもぐりこんでしまっだど。
 
山姥と童挿絵:かわさき えり

 
 童は、このときとばかり天井からおりてきて、ぐらぐら沸(わ)いていた鍋の煮え湯を、唐櫃の中さ、じゅじゅじゅじゅうっと注ぎこんでやった。山姥、そのまま死んでしまっだど。
 童は山姥退治(たいじ)の手柄(がら)ばたてて、家さ帰ってきて爺と婆に話しだど。

 
山姥と童挿絵:かわさき えり

 したら、爺と婆に、
 「そだへで、晩げに大きな声出して叫ぶもんでねぇ」
といわれたど。
 どんと払い。

岩手県
に伝わる他のおはなしへ >>

こんなおはなしも読んでみませんか?

一休さんの引導(いっきゅうさんのいんどう)

一休さんの引導(いっきゅうさんのいんどう)

むかし、京の都に一休(いっきゅう)さんと親しまれた立派な和尚(おしょう)さんがおられた。その一休和尚さんが、和尚さんになる前の、まだずっとこんまいと…

この昔話を聴く

大沼の主と娘(おおぬまのぬしとむすめ)

大沼の主と娘(おおぬまのぬしとむすめ)

むかし、あるところに代々続いた大層な長者があったと。あるとき、長者はふいの病であっけなく死んだと。あとには嬶様(かかさま)と娘が残された。ある朝、嬶…

この昔話を聴く

仁王とどっこい(におうとどっこい)

仁王とどっこい(におうとどっこい)

むかしむかし、日本に仁王という男がおって、力持ちでは日本一だったと。あるとき、仁王は八幡さまへ行って、「唐の国には、“どっこい”という名の力持ちがいるということだから、わしはそれと力競べしてくるべと思うとるが」と、お伺(うかが)いをたてたと。

この昔話を聴く

現在719話掲載中!