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やまおとこ
『山男』

― 岩手県遠野市 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 むがすあったど。
 岩手県遠野市(とおのし)の青笹(あおざさ)の前河原(まえかわら)どいうどごろに、とっても力持ちで相撲(すもう)の好きな男がいだったど。
 ある日のごと、男は六角牛山(ろっこうしさん)の麓(ふもと)に芝刈(しばか)りに行ったど。昼時になって餅(もち)を出して食ってらったら、藪(やぶ)がガサガサッと鳴って、いきなり大っきな男が現(あらわ)れたど。あんまり大っきいので、化けものだと思っだど。


 その大男は、餅食いてぇどいうように、手を差し延(の)べたと。
 そんで、持っていだ餅半分こして一緒(いっしょ)に食ったど。
 
山男挿絵:かわさき えり


 餅を食いおわったら今度ぁ、相撲取るべっていうような恰好(かっこう)したど。
 男も何しろ相撲が好きな人だったがら、喜んで相手をしたど。だども、相手はとてつもない大男なもんで、
 「これはハァかなわねぇな」
と思ったども、夢中(むちゅう)になって相撲取ったところが、大男はコロッと転がっだど。
 大男は真っ赤になって怒(おこ)っだど。
 男は何だかおっかねぐなっで、もう一番取ることにして、今度ァ負けてやっだど。
 そしたら、大男は喜んで帰って行ったど。


 次の日、男は餅をいっぱい持って、また、山へ行っだ。
 「昨日の大男、来るかも知んね」
と思って待っていだら、昼どきになって大男は仲間を二人連れで、三人でやっで来だど。
 皆(みんな)で餅を食ってがら、また、相撲を取るごどになったど。
 勝ったり負けだりして、互(たがい)に勝負無しだど。
 そしたら、大男たちゃあ喜んで、何か手伝う素振(そぶ)りしだ。
 「そんだば、おらほの田んぼの田打ちでも手伝って呉(く)れろ」
といっで、その日は別れだど。
 次の朝、男が田んぼさ行っだら、何と、一晩(ひとばん)のうちに、田打ちがすっかり終ってらったど。
 それがらどいうもの、毎年(まいねん)毎年、男が山へ餅を持って行ぐど、大男たちが田打ちをして呉れていだったど。

 
 歳(とし)が降(ふ)り積って、そのうちに、青笹のその男が死んでしまって、息子の代になっだど。
 息子は、お父うから山の大男のおかげを聴(き)いていたものの、山男どいう者はおっかねぇもんだと思って、田打ちの季節になっても、餅を山へ持って行がねかっだど。
 そしたら、ある晩のごど。庭の前でドスーン、ドスーンど、大っきな音がして、地響(ひび)きしたど。息子は、
 「はで、何だべ」
と思ったども、
 「おっかねぇ、おっかねぇ」
どいって、布団(ふとん)かぶってふるえでいだど。

 
山男挿絵:かわさき えり

 朝間(あさま)になって見だら、大っきな岩、庭の前さ落としてあっだど。
 それからというものぁ、この家では、良ぇ運がちいっとも向いてこねがっだど。
 
 どんとはらい。

「山男」のみんなの声

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山男(やまおとこ)

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