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かわうそときつね
『獺と狐』

― 岩手県 ―
再話 佐々木 喜善
整理 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、むかし、あるところに獺(かわうそ)と狐(きつね)があって、道で行き合ったと。狐が、
 「ざいざい獺モライどの、よい所で行き合った。実はこれからお前の所さ話しに行くところだった」
というた。獺が
 「何か用でもあったか」
というと、狐は、
 「なに、別段(べつだん)の用事ってこたぁないが、これからの冬の夜中(よなか)、互(たがい)に呼ばれあいっこをするべえと思ってさ」
というた。

 
獺と狐挿絵:福本隆男

 「それもいいな」
と獺が賛成(さんせい)したら、
 「そんなら、先(ま)ず俺が獺モライどのを訪ねて行くが、どうだ」
 「ああ、いいよ」
ということになったと。


 最初の日、獺は冷(つめ)たい川の中へ潜(もぐ)っていろいろな雑魚(ざこ)を捕(と)り、御馳走(ごちそう)をこしらえた。狐はたらふく食べて大満足(だいまんぞく)で帰って行った。
 翌日は狐が御馳走を作る番だ。獺は、兎汁(うさぎじる)でもたべさせてもらえるかと、生つばのみのみ狐の家を訪ねた。が、狐の家には御馳走の匂(にお)いどころか、客迎(きゃくむか)えするような気振(けぶ)りも無かった。いぶかった獺が、
 「ざいざい狐モライ、俺、来たぞ」
といいながら家の中へ入っていくと、狐は返事もしないで、一生懸命(いっしょうけんめい)に上の方を見ていた。

 
獺と狐挿絵:福本隆男

 獺が何をしたと聞くと、狐はやっと、
 「獺モライどの、申し訳ないが、実は俺、今晩(こんばん)急に空守役(そらまもりやく)をおおせつかって、それで上の方ばかり見て居なくちゃならないんだ。今夜の所は許して帰ってくれんか」
というた。
 獺は首をかしげかしげ帰ったと。


 そのあしたの晩、獺はまた狐の家を訪ねた。
 「ざいざい狐モライ、今晩も来たぜ」
といいながら家の中へ入って行くと、狐は返事もしないで、一生懸命に下の方を見ていた。
 獺が何をしたと聞くと、狐はやっと、
 「獺モライどの、今晩も運悪く地守役(じまもりやく)をおおせつかって、それで下の方ばかり見ていなくちゃならないんだ。本当に申し訳がないけど、今夜も帰ってくれんか」
というた。
 獺は狐のうそに気がついた。が、そのまま何食わぬ顔で帰ったと。


 その次の晩、狐が獺のところへやって来た。
 「獺モライどのいたか。昨日(きのう)と一昨日(おととい)は申し訳なかった。実は今夜獺モライどのを招(よ)ぼうと思ったけれども、仕度(したく)が出来ないんだ。これから魚を捕りに行くべえと思うが、いったいどうやれば取れるのか教えてくれんか」
と狐がいうたら、獺は、
 「そんなこと、とっくに識(し)ってると思うていたが…。なあに、訳ないさ。今晩みたくシバレル晩が一番いい。川さ行って、尾っぽを川の水に浸していればいいだけのことさ。
 魚がチョロッとやってきて尾っぽにからみつく。
 チョロッ、ピタッ、チョロッ、ピタッてからみつかせておいて、たくさんからみついたな、という頃合(ころあ)いに、おもいっきり尾っぽを引き上げるのさ」
 と教えてやった。そしたら狐は、
 「フフン、それは識ってる。俺は別の方法を識りたかったんだけど、まあいいや」
というて、プッと置(お)き屁(へ)して、走って行った。

 
獺と狐挿絵:福本隆男

 狐は川の水に尾っぽを浸しながら、
 「獺ってのはどこまで気が良(い)いのやら。俺にだまされているのをなぁんにも知らんと、魚捕りの秘伝(ひでん)までおしえてくれるとは」
と、ほくそ笑んでいたと。


 すると、チョロと流れてきてピタッと尾っぽにくっつくものがあった。
 「おっ、これだな。魚捕りなんてチョロイもんだ。ようし、あとはこのままいっぱいひっつけてから、思いっきりひきあげるんだったな。さあひっつけ、もっとひっつけぇ」
 夜が更けていくにつれ寒さがつのるけど、狐はふるえながらチョロッ、ピタッ、チョロッ、ピタッをたのしんでいた。もう少し、もう少しと我慢(がまん)をして、とうとう尾っぽが重くなったと。
 「ようし、もういいだろう。それっ」
 狐は、力をこめて尾っぽを引きあげた。が尾っぽは水からあがらない。
 「こりゃ、魚がいっぱい食いついとるなぁ」
と喜んで、また
 「それっ」
と力を込めた。が、やっぱり尾っぽは引き上がらない。


 「こりゃ大変だ。早起きの犬か人間に見つかったら、ただではすまん。早いところ魚を持って帰らなにゃあ」
というてあわてたと。
 そうこうするうちに夜が明けた。
 川は一面に凍りが張っていて、狐の尾っぽも一緒に張りついてしまっていた。
 夜中にあった、「チョロッ、ピタッ」は、魚が食いついていたのではなく、流れてきた薄氷(うすごおり)が尾っぽに張りついていたものだったと。


 夜が明けたら狐が心配していた通り、人間の嫁ごさまが川へ朝水を汲(く)みに来た。
 「あれまぁ、あんなところに狐が尾っぽを凍りに噛(か)まれて身動き出来ないでいるぅ」
 狐は嫁ごさまに手桶(ておけ)のかつぎ棒(ぼう)で、叩(たた)き殺されたと。
 
 どんとはらい。

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