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みずこいやま
『水乞い山』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
採集・再話 武田 礼子
整理 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、百姓(ひゃくしょう)は、ただ下積(したづ)みになって暮らして来たわけだナス。
 干魃(かんばつ)で苦しみ、冷害(れいがい)で泣がされ、年貢米(ねんぐまい)の割り当てでは役人にしぼり取られでス。
 干魃になれば、北上市(きたがみし)の更木(さらき)には用水もなく、溜池(ためいけ)の水に頼るくらいで、沢水だって、そうあてにならなかったのス。

 
水乞い山挿絵:福本隆男

 何日か日照(ひで)りがつづくと、ただギロッと天にらむしかなかったのス。
 水飢饉(みずききん)の時は、人殺しもあったというなァ。

 
 夜中、寝ずの水番(みずばん)するど、その水番同士の闇討(やみう)ちあったりしたわけヨ。
 百日間、雨降らなくて掘ったという水騒動(みずそうどう)の井戸が、今も更木にそのままあるがア。
 その頃のことだア。
 どこからか、三経上人(さんきょうしょうにん)が現れで、
 「ここでは水がなくて困ってるそうだが、オレ、ひとつ水の出るように祈願(きがん)してやる」
と言って、ここさ七つの井戸を掘れと村人に言ったど。
 村人だぢ、まず一つの井戸掘りはじめだど。一つ掘れたら、三経上人、その井戸さ一日じゅう入って清めるのだけど。
 何日もかかって、村人だぢ七つの井戸掘り終えだど。

 
水乞い山挿絵:福本隆男
 
 三経上人、七日間井戸に入って清め終わったら、その七つの井戸から、ドワッと、水湧(みずわ)き出したんだど。


 そしたら、また村人だぢに、
 「更木の一番高い山に、焚き木(たきぎ)千ダン集めて積め。もし雨が降らなかったら、この千ダンの焚き木を燃やした中で、この三経上人は死ぬ」
ど言っだど。
 焚き木千ダンといえば六千束(ろくせんたば)だ。村人だぢ、またその通りにしたど。
 三経上人、この千ダンの焚き木の上さ乗って、衣(ころも)をたなびかせ、天に向かって祈願の心こめで、お経読みはじめだど。
 そして、村人に、その千ダンの焚き木さ火をつけらせだど。

 
水乞い山挿絵:福本隆男

 百日も雨降らなかったから、その焚き木、火の粉まき散らしてメラメラ燃えたど。
 三経上人は、焚き木の上で、ますますお経高らかにとなえるけど。


 その足元(あしもと)に向かって日が燃えさかり、村人だぢが、
 「あ、衣さ火が移る」
 「あ、足が火につつまれた」
と、口ぐちに言っで、さあ、今にも三経上人が焼け死ぬ、と思って、みなみな掌(て)をあわせだけど。
 三経上人、天が割れるような声でお経つづけるけど。
 そうやって騒(さわ)いでいるうぢに、辰巳風(たつみかぜ)が吹き、黒い雲が山の上に広まっていだのス。
 そして、滝のような雨が、ザバーと降って来たど。
 燃えさかる千ダンの焚き火(たきび)は、ジフーど消えてしまって、百姓だち、ただ掌(て)を合わせ、涙流して喜んだど。


 三経上人は、更木を去るとき、
 「もし、これからも雨が降らなくて困ることがあったら、寒沢(さふさ)の方さ向かって、太鼓(たいこ)たたいて拝(おが)め。必ず雨を降らせよう」
ど言ったのだけど。
 更木には、三経上人の行(ぎょう)した所に、今もそのまま七つの井戸があるがス。
 今は土がくずれたり、ごみや木の葉(きのは)がかぶさっているが、木の葉をさらうど、そこは水がサワサワど湧いでいるのス。
 更木で一番高い山が標高(ひょうこう)280メートルの三経上人が祈願した山で、水乞い山という名で呼ばれでるのス。
 いまでも、更木の人だちは、雨が降らなくて困るときは、水乞い山さ祈れという言い伝えを守って、水乞い山にお祈りして、餅米(もちごめ)集めて、雨降ると同時に餅ついで、神様にあげで、集まった人みんなで食って、解散(かいさん)する習わし残してるのス。
 
 どんとはらい。

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水乞い山(みずこいやま)

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