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やまなしとり
『山梨とり』

― 岩手県 ―
再話 平野 直
整理・加筆 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるどころにおっ母(か)さんと兄弟三人があったと。
 おっ母さんが病気で寝(ね)ていて、山梨が食いたいと言ったと。
 一番目の太郎が、
 「それでは山梨とりに行ってきます」
といって出かけたと。
 行くが行くが行くと、山の中の大きな岩の上に婆(ばあ)さまがいて、
 「どこさ行ぐ」
と聞いた。

 
山梨とり挿絵:福本隆男

 「山梨もぎに行く」
というと、
 「そんだらば、三本の股道になっている所に、笹葉こが三本立っている。それが『往(い)げちゃガサガサ』『往ぐなっちゃガサガサ』というから、往げちゃガサガサと言う方さ入って行げ」
と教えてくれたと。


 行くが行くが行くと、三本の股道があって、婆さまの話の通りに三本の笹葉こが立っていて、『往げちゃガサガサ』『往ぐなっちゃガサガサ』と鳴っていた。


 太郎は、婆さまに言われたことも忘れて、『往ぐなっちゃガサガサ』と鳴っている方の道さ入って行った。すると今度は、鳥が巣くっているところがあって、『往ぐなっちゃとんとん』と鳴っていた。それでもなんでも行くと、その次には大きな木の枝こにふくべが吊(つ)るさっていて、『往ぐなっちゃカラカラ』と鳴っていた。それでもなんでも行くと、沼の傍(そば)に山梨が、ざらんざらんとなってあった。
 
山梨とり挿絵:福本隆男


 木に登ってとろうとしたら、太郎の影が水に映って、沼の主にげろりと呑(の)まれてしまったと。

 上の太郎がなんぼ待っても帰って来ないので、今度は次郎が出て行ったと。その次郎も山の岩の上の婆さまの言うことを聞かないで、沼の主にげろっと呑まれてしまったと。
 
山梨とり挿絵:福本隆男


 次郎がなんぼ待っても帰って来ないので、今度は三番目の三郎が出て行ったと。
 行くが行くが行くと、山の中の大きな岩の上に婆さまがいて、
 「どこさ行ぐ」
と聞いたと。
 「山梨もぎに行く」
 「まえにも、そんなのが二人いたな」
 「それは私の兄達(あにたち)にちがいない。兄達が帰って来ないので、病気の母が案じています」
 「それは、この婆(ばば)のいうことを聞かないからだ。お前もそうなりたくなかったら、この婆の言うことをよくお聞き」
といって、一振(ひとふ)りの刃(やいば)をくれたと。


 三郎はありがたく貰(もら)って、行くが行くが行くと、三本の股道のところへ出た。三本の笹葉こが立っていて
 『往ぐなっちゃ ガサガサ
  往げちゃ、ガサガサ』
と、いっせいに鳴っていた。
 三郎はようく耳を傾(かたむ)けて、一番まん中の『往けちゃガサガサ』と鳴っている道を行ったと。すると今度は鳥が巣くっているところがあり
 『往げちゃ とんとん
  往げちゃ とんとん』
と鳴っていた。

 また行くと、今度は大木にふくべが下がっていて、
 『往げちゃ カラカラ
  往げちゃ カラカラ』
と鳴っていた。


 なおも行くが行くが行くと流れがあって、赤い欠け椀がつんぷくかんぷくと流れてきた。欠け椀を拾ってなおも行くと、大きな沼の傍に山梨がざらんざらんとなってあった。
 その山梨は風が吹くたびに、
 『東の側は おっかねぞ
  西の側は あんぶねぞ
  北の側は 影ァ映る
  南の側がら 登りもさい ざらんざらん』
と唄(うた)っていたと。
 三郎は、その唄をようく聞き、ははぁ、これは南の側から登るのだな、と分かったと。
 木に登って、うまそうな実ばかり、袋にとったと。
 もうよかろうと、木を下りる段になって間違って沼の方の枝に乗り替えた。
 そしたら、三郎の姿が沼に映ったと。沼の主が現れて、三郎をげろっと呑もうとした。

 
山梨とり挿絵:福本隆男
 三郎は、岩の上の婆さまから貰った刃で沼の主を切ったと。沼の主は切られたところがすぐに腐(くさ)って死んだと。


 そしたら、沼の主の腹(はら)の中から、かすかに、
 「ほうい、三郎やぁい」
と呼ぶ声が聞こえた。腹を割いてみると、兄の太郎と次郎が、今にも息も絶え絶えの様子で出てきた。拾った赤い欠け椀で沼の水を汲(く)んで飲ませたら、たちまち元の元気な太郎と次郎になったと。
 そこで三人兄弟そろって山梨を持って帰りおっ母さんに食べてもらったら、おっ母さんの病気が、けろけろと治ったと。
 どんとはらい。
 

「山梨とり」のみんなの声

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山梨とり(やまなしとり)

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