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きつねのおぼけ
『狐の苧桶』

― 岩手県 ―
再話 平野 直
再々話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところにひとりの若者があって、長いこと雄猫(おすねこ)を飼(か)っていたと。
 そうしたところが、この猫がいつもいつも夜遊びをするので、あるとき、若者は猫のあとをつけてみたと。猫は、誰もいない古寺へ入って行った。こそっと覗(のぞ)いてみたら、娘たちがいて、そのうちの一人から、麻糸(あさいと)を紡(つむ)ぐときに使う苧桶(おぼけ)という籠(かご)を受けとって、被(かぶ)った。するとたちまち、猫がりりしい兄様(あにさま)になった。して娘たちと楽しそうに踊(おど)りを踊ったと。

 
狐の苧桶挿絵:福本隆男

 「はて、どこの娘たちだ」
と思って見てたれば、踊っているうちに尾っぽを出すのがいて、「はン、狐(きつね)か」と判(わか)ったと。

 
 そのうちに、りりしい兄様になった猫がそばに来たので、
 「俺だ、その苧桶、ちょっと貸せじゃ」
といったら、猫は、ほい、とその苧桶投げてよこした。
 被って一緒に遊ぶのかと思いきや、若者は苧桶を持って、とっと、とっとと家に帰ってしまったと。
 そしたら、狐たちが狐火(きつねび)灯(とも)して、ぞろぐらやってきて、
 「苧桶よこせ、苧桶よこせ」
と、家のまわりを叫(おら)びまわるのだと。
 あんまりやかましいので、次の日、古寺の横の狐穴の前で焚き火(たきび)をし、盛(さか)んに燻(いぶ)してやった。して、出てくる狐どもをみんな退治(たいじ)してしまったと。若者は、
 「こんでよし。苧桶よこせっちゅう奴は、もうおらんぞ」
というて、苧桶を我物(わがもの)にしたのが嬉しくてならない。早速(さっそく)、被って町へ行った。


 すると行き合う人たちは皆が皆両脇(りょうわき)に寄って、景色のいい姿をほめそやす。気分が良(え)えったらない。 
 その苧桶は、被ればりりしい若者になるだけではなく、鳥の話も聴(き)くことが出来るものであったと。
 
狐の苧桶挿絵:福本隆男

 
  あるとき、それを被って木陰(こかげ)に休んでいたら、その木に鳥が止まって、何か話しているのが聴こえた。耳を澄(す)ましたら、
 「下にいる若者は、苧桶の本当のありがたさを知らない人だ。あれを床(とこ)の間に飾(かざ)って置(お)けば、欲しい物は何でも手に入るし、よい嫁御(よめご)も来るのになぁ。気の無いことをするもんだ」
と、一方の鳥が言えば、もう一方の鳥も、
 「そうだとも、そうだとも。あのままでは狐のたたりで良(え)えことぁ無(ね)えな。家の猫もな、ちゃんと養ってやらねぇど,猫もたたるようになるべ」
と、話し合っているのだと。

 
 若者は、それを聴いてびっくりした。
 「俺のことしゃべってらぁ」
 というて、あわてて家に帰ったと。
 して、すぐに苧桶に雄猫を入れて床の間さ飾り、飯(まま)食わせて面倒(めんどう)をみてやったと。
 そうしたら、やがて、欲しいと思うものは何でも手に入るようになり、そればかりか、良い嫁御も来て、末永く繁昌(はんじょう)したと。
 
 どっとはらい。
 

「狐の苧桶」のみんなの声

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狐の苧桶(きつねのおぼけ)

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