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つぶぼっこ
『田螺童』

― 岩手県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、むかし、あるところに爺(じい)と婆(ばあ)があったと。爺と婆には子供がなかったので田んぼの水神様(すいじんさま)に願(がん)かけをした。
 「この年寄りに、田螺(つぶ)でも蛙(びっき)でもええから、どうか、童(ぼっこ)一人、お授(さず)け下(く)なさい」
とお願いした。そしたら水神様が、
 「田螺でも蛙でもええという願い、不憫(ふびん)ゆえ叶(かな)えてやろう。これを授けるから、大切に育てろ」
というて、ひとつの田螺(たにし)を下さった。二人はこの田螺童(つぶぼっこ)をおしいただいて家に帰り、水をそそいだお椀(わん)に入れて、神棚(かみだな)へおあげしておいたと。

 
田螺童挿絵:福本隆男

 毎朝、毎晩、今日声たてるか、今日手が出るか、足が出るか、と神棚の田螺童を気にしていたが、いつまでたっても田螺(つぶ)はやはり元の田螺(つぶ)のまんまだ。


 そのうち、春祭りが近くなった。爺は長者どのへ米を売りに行こうかなと、馬に米俵(こめだわら)をつけていた。そしたら、
 「爺な、おらが長者ん家(ち)行ぐ。馬さ乗せて呉(け)ろ」
と声がした。爺、びっくりして、キョロ、キョロ見廻(みまわ)していたら、
 「ここだ、ここだ」
というて、神棚のお椀の中から、田螺童(つぶぼっこ)が蓋(ふた)をあげたり閉めたりして叫(さけ)んでいた。爺、
 「やぁ、お前(め)、やっと声出したかぁ」
というて、神棚からお椀を下(お)ろし、蓋をとって田螺(つぶ)を掌(てのひら)へ乗せ、まじまじと見た。どこが手やら足なやら、さっぱりわからん。とまどっていると、田螺童(つぶぼっこ)が、
 「爺な、小っさな紙袋(かみぶくろ)さ、ハッタイ粉(こ)を入れて呉(く)ない。そしたら、明日の朝は花嫁コ貰(もろ)うて戻ってくるから」
というた。爺、ハッタイ粉を持たせたと。


 積荷(つみに)の間に置いてもらった田螺童(つぶぼっこ)は「ハイドウ、ハイドウ」と掛け声をかけた。馬は首の鈴(すず)をジャガ、ジャガ振り鳴らして行った。
 道往(みちゆ)く人や田んぼにいる人たちは、この有様(ありさま)に驚いて、長者どのへご注進(ちゅうしん)したと。
 長者どのでは、ほれ、神様の申し子の田螺童(つぶぼっこ)が来るというので、家中で表へ出て待っていたと。来た来た、あららあらら、と大騒ぎだ。
 田螺童(つぶぼっこ)珍しいもんだから、今夜は泊(と)まって行けという。
 「そんでは、お言葉に甘えでお願い申す」
というて、泊まることになった。


 その晩、長者どのでは、大したおご馳走(ごっつぉう)だ。
 不思議(ふしぎ)なことに、魚もご飯も、汁ものも、いつの間にかあとも残さないで、ペカリ、ペカリと無くなっていく。
 なにせ、水神様から授かった子ぉじゃものと、長者どのはじめ、みなみな、ただ感心してながめてたと。
 「さで、夜も遅(おそ)いごどだし、田螺童(つぶぼっこ)どのや、寝(ね)もさい」
と床(とこ)をのべてくれた。
 真夜中になって、長者どののみんながぐっずり寝込(ねこ)んだころ、田螺童はそろりと床から起きた。ハッタイ粉の紙袋を難儀(なんぎ)しながら担(たな)いで、長者どのの娘のうち妹の部屋へ、こそっと忍びこんだ。紙袋を妹の枕元へ置(お)き、ハッタイ粉を妹の口のまわりへ塗(ぬ)りつけた。


 次の朝、田螺童は、
 「おらのハッタイ粉無くなった」
いうて、大騒(おおさわ)ぎした。
 長者どのが来て調べてみると、妹娘の口のまわりにハッタイ粉がついており、その枕元には紙袋があった。長者どのは田螺童に、
 「なんともお恥(はず)かしことですだ。堪忍(かんにん)しておくんなさい」
といい、妹娘には、
 「お前のような恥(はじ)っさらしは家に居ることならん。どこへなりとも出て行け」
というた。


 妹娘は、身に覚えがないので、思いがけない成り行きに、ただただ泣くばかり。
 田螺童は長者どのに、
 「おらのハッタイ粉を食うたのも何かの力が働いてのことでしょう。これもご縁、おらの嫁に貰(もろ)うて行きます」
というて、妹娘を馬の背に乗せて、ハイハイとばかりに家へ戻ったと。
 家では、花より美しい嫁が来たので、爺と婆は大喜(おおよろこ)びだ。それにこの嫁がまた爺と婆によく仕(つか)える。野良(のら)へも出て働いてくれるので、暮(く)らし向きもよくなってきた。爺と婆は、これもみな、水神様のおかげだというて、今までにもまして手を合わせていたと。


 春祭りが来た。田螺童は嫁と鎮守(ちんじゅ)さまへ出かけた。嫁の髪(かみ)にカンザシみたいに止めて貰って、いいながめだと。道筋(みちすじ)の畦道(あぜみち)を歩いていたら、烏(からす)がバフバフと飛(と)んできて、嫁の頭に止まっていた田螺童を嘴(くちばし)でボキッとつつき落としたと。嫁は、
 「アヤー、こどだじェ。おらの夫(とど)さま、田んぼの中さ落ぢだ」
というて、あわてて田の中のぞいてみたけども、春のことだから、田の中には田螺(つぶ)たちがたくさんいて、どれが夫(とど)さまだか、さっぱり分からない。
 嫁は悲しくて悲しくて、オエオエと目を泣きはらしていた。
 そしたら、後ろから、
 「妻(おかた)、妻(おかた)、なにを泣く」
と声がした。振り向いて見たら、水もしたたるような景色(けしき)のいい立派な若者が立っていた。

 
 「おどろかんでもええ。おらだ。田螺童だ。今までは仮に田螺(つぶ)の姿で居だが、お前(め)がよくつとめて呉(け)たので、やっと人間の性(しょう)に立ちかえった。烏と見えだのも、実は水神様のお遣(つか)いであったのだ」
と、語ったと。
 
田螺童挿絵:福本隆男

 
嫁は我が夫(とど)さまは、こんなにもええ夫(とど)さまであったかと思うと、頭がくらくらして、こんどは嬉(うれ)し泣きだと。
 このことが長者どのに聞こえた。
 我が娘は水神様の申し子の花嫁(はなよめ)、このままでは罰が当たる。も一度輿(こし)いれのやりなおしだ、いうて、箪笥長持(たんすながもち)、ずらりと連(つら)ねて繰(く)りこませたと。
 それからというもの、爺と婆と田螺童と嫁の一家(いっか)には、日銭夜銭(ひぜによぜに)がざんぐごんぐと溜(た)まって、ところきっての長者となり、田螺長者(つぶちょうじゃ・たにしちょうじゃ)どのと、あがめられたと。
 
 どんとはれぇ。
 

「田螺童」のみんなの声

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怖い

つぶぼっこが、馬に乗って他の人の家に行きましたつぶぼっこは、妹の部屋に忍び込んで妹の、口の. 周り粉を塗った、泥棒扱いして自分の嫁にした。  それわ犯罪だと思いました。 ( 10代 / 男性 )

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