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わらしべおうじ
『わらしべ王子』

― 鹿児島県大島郡 ―
再話 関 敬吾
再々話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、琉球(りゅうきゅう)の那覇(なは)に、母と男の子とが二人で暮(く)らしてあったと。
 男の子が七歳(さい)になったとき、母は死の病(やまい)にかかったそうな。
 間もなく命がつきるというときになって、母は男の子に、
 「納戸(なんど)の天井(てんじょう)に餅稲(もちいね)の藁(わら)が三束(みたば)あるから、ここへ持ってきておくれ」
というた。男の子は、急いで、納戸の天井から餅稲の藁三束持ってきた。

 
わらしべ王子挿絵:かわさき えり

 「それがお前に残してやれる財(ざい)産だ。母さんが死んで七日経ったら、味噌(みそ)屋で、その藁と味噌とをとり換(か)えなさい。そこからお前の運が開けるでしょう。


 この藁はね、母さんが王・加那志(かなし)さまの后(きさき)であったとき、王様が大勢の夫役(ぶやく)を使われたことがあったの。
 みんなが働いているところで、母さんが沖(おき)を通る船を見て、何という大きな船でしょう、と言ったら、大勢(ぜい)の者が手を休め、その船をながめたの。

 
わらしべ王子挿絵:かわさき えり
 
 王様は大層(たいそう)怒(おこ)って、たくさんの人の暇倒(ひまだお)れをさせるような女は、わしの后ではない、出ていけ、とおっしゃられて、母さんは城(しろ)を出されたの。


 出ることになったとき、舅(しゅうと)さまが下されたのが、この餅稲の藁三束だったのよ。
 いい、必ず味噌と取り替(か)えるのですよ」
と、こう言いのこして、母は死んだと。

 男の子は、母親の一七日(ひとなぬか)が過(す)ぎたので、遺言(ゆいごん)どうり餅稲の藁三束を持って、味噌屋へ行った。
 けれども、誰(だれ)も相手にしてくれなかったと。
 母の言い遺(のこ)しなので、二日も三日も味噌屋の前で座(すわ)り込(こ)んでいると、味噌屋の主が根負けして、
 「その藁を買うてやろう」
といい、味噌を三升(さんじょう)くれたと。


 男の子は、その味噌を三升もらうと、今度はいかけ屋に行った。すると、いかけ屋が、
 「その味噌をくれんか」
というた。
 「この味噌は、オイラの財(ざい)産だから、ただではあげられないよ」
というと、
 「ここにある鍋釜(なべかま)のどれでも持って行ってよい」
というた。


 「そんなら、そのふちの欠けている破(やぶ)れ釜(がま)と取り換える」
というて、味噌と破れ釜とを取り換えたと。
 男の子は、今度はカジヤの前へ行った。
 すると、カジヤがその破れ釜を見て、
 「その釜を売らんか」
というた。
 「これは売るわけにはいかん。刀となら取り換えてもいいけど」
というと、カジ屋は、
 「どれでも好きな刀を持って行くがよい」
という。
 「あの柄(つか)のない刀がいい」
というて、鋼(はがね)造(づく)りの破れ釜と柄のない刀とを取り換えたと。


 男の子は、柄のない刀を持って、今度は唐(から)船のとまっている浜へ行った。
 あまり疲(つか)れたので昼寝(ね)をしていると、泥棒(どろぼう)が男の子の刀を盗(と)ろうとした。
 すると刀は蛇(へび)になった。再び盗ろうとするとまた、蛇になった。泥棒はどうしても刀を盗ることが出来ない。


 この様子を、唐船の船頭が沖(おき)から見ていて、
 「これこれ、そこの男の子、その刀を見せてくれんか」
と、大声でいうた。男の子が船へ行くと、船頭が、
 「ぜひ、その刀をわしに売ってくれんか」
という。
 「売るわけにはいかん。あの屏風(びょうぶ)となら取り換える」
 「屏風ならいくつもある。お前の好きなのを取るといい」
 「なら、オイラ、あの破れ屏風をもらう」
男の子は、破れ屏風と取り換えて、それを持って、今度は、王・加那志さまの城へ行ったと。


 男の子は、破れ屏風を王さまの館(やかた)の築山(つきやま)に立てて、その蔭(かげ)で眠(ねむ)ったと。
 朝になったら、破れ屏風に絵画(えが)かれてあった鶯(うぐいす)が鳴きはじめた。それにつられて、たくさんの小鳥がさえずり出したと。
 王・加那志さまが、それを聞きつけて、
 「子供よ、その屏風をわしに売ってくれんか」
とおっしゃった。


 「これは売る物ではありません。けれども、二つのものとなら取り換えます」
 「その二つのものとは何であるか。言うてみよ」
 「海の潮(しお)と陸の水のある限り」
 王さまは、この返事を聞いて、しばらく考えた。<こんな、とんでもないことを言うのは、気がくるうているに違いない。ならば害はなかろう>
 王・加那志さまは、さっそく潮と水の販売証文(はんばいしょうもん)を書いて、男の子に渡(わた)したと。


 男の子は、潮と水のある限(かぎ)りが自分のものとなったので、水汲(く)みに来る人からは十銭(せん)もらい、潮を汲みに来る人からは五銭づつ金をとったと。
 今までただの水や潮に金を徴(と)られるようになって、困(こま)ったのは人民たちだ。何とかして元の通り、自由に汲まさせて下さいと、王・加那志さまに願い出たと。


 王さまは、すぐに男の子を呼(よ)び、
 「金はいくらでも出すから、潮と水の証文を返してくれんか」
というた。男の子が断ると、
「それでは、戦をして取り返すがいいか」というた。男の子は、
 「戦もおそれません。ですが、ひとつ王様におたずねしたいことがあります。オイラの母さんが、王さまのところにつかえていたときに、夫役に暇倒れをさせた、というて、城を追い出したお人は、どなたでしょうか」
と尋(たず)ねた。
 そう言われて、王さまははじめて子供の素姓(すじょう)を知ったと。

 
わらしべ王子挿絵:かわさき えり

 「我(わ)が子であったか。王の位は、お前にゆずるから、潮と水は人民に返してやってくれ」
というて、王・加那志さまは、すぐに隠居(いんきょ)されて、男の子は王様になったそうな。
 
 おしまい。

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