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いっときにさいたそばのはな
『一時に咲いたソバの花』

― 熊本県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 ずっとむかし。九州の天草の島々には、キリスト教を信じる沢山の人々がおった。ところが豊臣秀吉や徳川家康は、キリスト教は外国からきたよくない宗教だから信じてはいかんという、道理に合わないおふれを出した。
 キリスト様を信じる人達は、役人につかまると、火あぶりになったり、水ぜめになったり、あげくの果ては次々と殺されてしもうた。

 ある秋の日のこと、天草の百姓(ひゃくしょう)、信吉(しんきち)夫婦が畑にソバの種ををまいていると、タッタッタッタッタッタッと、何人かの人間が走ってきた。背の高い、茶色い髪の外国人、つまり異人が二人、そのあとには、二~三人の百姓がぴったりとついている。そして、信吉夫婦に近づくと、 

 「助けてくだされ。役人に追われ、つかまると殺されるとです。」
 「オネガイデス。コロサレマス。カミサマ、アナタガタヲ、キットマモリマス。」
と、逃げてきた百姓と異人が口ぐちにいうた。

挿絵:かわさき えり
 

 「でも、あんたたちは罰人(ざいにん)じゃなかかね。罰人じゃけん、役人に追われとるんじゃろ。そんなら、助けるわけにはいかんとね。」
 「罰人というても、何も悪いことはしておらん。ただ、天の神さま、キリスト様をお祈りしとるだけじゃとね」
 「そうか。キリシタンか。それなら、早う逃げなされ。この先の崖の下に岩穴があるよって、あそこならだれにも見つからんとね。」
 「ありがたい。神様はきっとお前さんたちを守ってくださるとね。役人がやってきたら、ソバの種をまいているときに崖の方へ逃げていきよったと、本当のことをいうてくれ。」
 異人とつれの百姓は急いで崖の方へ逃げていった。すると、不思議なことに今まいたばかりのソバが次々と芽を出し、白い花をつけ、一面まっしろなソバ畑となった。 

 
挿絵:かわさき えり
 

 まもなく、追手の役人が大勢やってきた。
 「おい百姓、今ここに異人達が逃げてこなかったか。キリシタンを隠すと、お前達もただではすまんぞ。」
 「はい、異人達はここを通って崖の方へいきました。けれどもそれは、このソバの種をまいているときです。」
 「何、このソバの種をまいているとき。ソバはもう白い花をつけているではないか」
 「確かにソバの種をまいているときに異人達が通りました」
 「そうか、それならずっと前のことだ。しかたがない、みんなここにはおらん。引き返せー。」
 追手の役人はきた道をもどっていった。すると、今まで一面に咲いていた白いソバの花が急にしぼんで、もとのなーんにもない畑になった。 

 信吉夫婦は、
 <きっと天の神様が助けてくれたに違いないとね。天の神様は、どうにもならんときには、お救い下さるんだ>
 と、両手を胸にあてて、いつまでもいつまでもお祈りしたと。
 このことは、人から人、村から村へと伝わり、天の神様の不思議な力に感動した人達は、そのあともずっと、かくれてキリスト様を信じていたそうな。 
 

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一時に咲いたソバの花(いっときにさいたそばのはな)

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