― 三重県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
昔あった話やんけ、あるところにの、一人息子でばくち好きな男がおったんて。
おやじからもろた銭もみなばくちに取られてしもて、一文無しになってよ、ふてくされて山ん中で昼寝しとったんやな。
ふと目ぇ覚ましてふところからサイコロふたつ出して、
「丁(ちょう)見たか半(はん)見たか」
と、転がしてばくちの真似(まね)しとったやんけ。
その様子を、天狗が高い松の木のてっぺんから見下ろしとっての、
「あやつ妙なことを言いよったな。京(きょう)見たか阪(はん)見たかぬかしよったが、あんな小さい四角なもんで、京や大阪(おおさか)が見えるんかいな」
と天狗はつぶやいての、天狗はサイコロ初めて見たんで何も知らざったんや。
挿絵:かわさき えり
スルスルッと木から降りてきて、
「やい小僧、おめぇ、京見たか大阪見たかって生意気こいたが、そんな小(ち)っぽけなもんで、よう見えるんかい。おれにもちょっくら貸せやい」
ちゅうたと。天狗は、もうサイコロが欲しゅうて、欲しゅうて、のどから手が出るほど欲しがったげな。
そこで、自分の大事な道具と取り替えてくれと、もちかけたっちゅうこっちゃ。
ばくち打ちの男は、さんざんサイコロを見せびらかして、
「天狗さんの道具ちゅうのは、どんなもんかい。品物をよう見た上での話にしょまいけ」
ちゅと、天狗は、羽うちわと、隠れみのと、飛び羽(ばね)と、三つの宝物を惜しげもなく差し出して、いろいろ使い方を教えたげな。
ばくち打ちの男は、もう天下取ったような大喜びして、家へ持って帰ったげな。
へて、ひとつ使(つこ)うてためしてみよ思うて、飛び羽でパッと飛び上がると、アッという間に、もう大阪のど真ん中に着いたげな。
挿絵:かわさき えり
ちょうど大阪の大分限者(おおぶげんしゃ)の鴻(こう)の池(いけ)の一人娘が、文金高島田(ぶんきんたかしまだ)に髪結(ゆ)うて振袖を着ての、化粧しとるところへ行き合わした。
「こうりゃ面白い、あれにいたずらしちゃろ」
って、隠れみので姿見えんように忍び込んで、羽うちわであおいだげな。すると、
「ありゃありゃ、花嫁さんの鼻が天狗さんのように伸びたわ」
ちゅうて、鴻池の人達が大騒ぎするので、また反対にあおぐと、今度は元のように鼻が低うに治(おさ)まったげな。
ばくち打ちの男は、こいつぁ面白いわい、と悦に入って、熊野の権現(ごんげん)さんの山のてっぺんに飛んで、自分の鼻をあおぎまくると、伸びるは伸びるは、鼻がズンズン伸びてって、東海道を通り抜けて、江戸の浅草まで伸びたちゅうぞ。
江戸では、日本一の高い鼻と言うことで、浅草の盛り場で見せ物にしたげな。
見物人が江戸中から押しかけて、ばくち打ちの男は大もうけしたげな。
それから、”花(鼻)のお江戸”ちゅうことになったと言うわい。
どっとはらい。
民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。
「感想を投稿する!」ボタンをクリックして
さっそく投稿してみましょう!
昔、あるところに、貧乏な爺さと婆さがおったと。年の暮れになれば、年とり米も年とり魚もかわねばならんので、爺さは毎年山へ行っては門松(かどまつ)を取って来て、それを町へ持って行って、売り歩いておったと。
むかしむかし、日本に仁王という男がおって、力持ちでは日本一だったと。あるとき、仁王は八幡さまへ行って、「唐の国には、“どっこい”という名の力持ちがいるということだから、わしはそれと力競べしてくるべと思うとるが」と、お伺(うかが)いをたてたと。
「ばくち打ちと天狗」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜