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ししがりしょうえもん
『猪狩り正右衛門』

― 宮崎県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 昔、日向(ひゅうが)の国、今の宮崎県(みやざきけん)西都市(さいとし)に正右衛門(しょうえもん)という狩人(かりゅうど)があったげな。

 正右衛門は猪撃(ししう)ちの狩人でな、山に入ると猪(いのしし)の気配(けはい)を感(かん)じるじゃろか、犬(いぬ)の放(はな)しどころに無駄(むだ)がなかったちいうぞ。

 猪を獲(と)るときには始(はじ)めに犬を解(と)き放ち、犬がワンワン、ワンと猪を追(お)い出すと、
 「どこじゃ、どこじゃ」
とあとを追って、ズドンと一発(いっぱつ)で命中(めいちゅう)させたと。
 
猪狩り正右衛門挿絵:かわさき えり

 あるとき、正右衛門が山へ猪狩(ししが)りに行くと、その日はどうしたことか、探(さが)しても探しても猪の気配すら無かったと。山の奥(おく)へ奥へ分け入って日が暮(く)れた。

 正右衛門は山での野宿(のじゅく)は慣(な)れたもの。先(ま)ず水場(みずば)を探し、木を伐(こ)って火を焚(た)いた。山の獣(けもの)は山火事(やまかじ)の恐(こわ)さから火と煙(けむり)が嫌(きら)いなのだと。火のそばで寝(ね)ていれば獣からは身(み)を守(まも)れる。けれど、火に近寄(ちかよ)って来る妖怪(ようかい)もいるから、これには用心(ようじん)せねばならんのだと。

 正右衛門は火を焚いてから、近くの木に登(のぼ)って妖怪の気配が無いか用心(ようじん)していたと。
 遠くで木の枝(えだ)の折(お)れる音がした。よおっく見ると“山おんじょ”がうろついていた。

 “山おんじょ”というのは、山の翁(おきな)だとも山男(やまおとこ)だとも言われているが、はっきりとは判(わか)っていない。なにせ、それに出会(でお)うた者で生きて帰った者はいないと言われておるからな。大きな妖怪だとも言われておる。正右衛門は、
 「こりゃいかん。山おんじょにやられるぞ」
と思い、木から下りて、着ているぼろ着物(きもの)を脱(ぬ)ぎ、火のそばに集めた焚木(たきぎ)に着せ、その上にもう一枚(いちまい)、山師合羽(やましがっぱ)を被(かぶ)せて、人が寝ているように見せかけた。そうやってから、また、木の上に登って待ったと。

 しばらくして、
 「ごろん、ごろん」
 「ござる、ござる、ござる」
と言いながら、身体(からだ)じゅう毛(け)むくじゃらの、山おんじょがやってきた。それが、
 「やあ、ここにござる。ここに寝てござる。ござる」
と言うて、いきなり鉄砲(てっぽう)をズドンと、正右衛門のぼろ着物に撃(う)ちこんだ。
 木の上で待ちかまえていた正右衛門も山おんじょめがけて、鉄砲を撃った。
 
猪狩り正右衛門挿絵:かわさき えり

 山おんじょは、
 「やあ、そこにござったか。ござったか」
と言うて、逃(に)げて行ったと。
  正右衛門は夜が明けると、山おんじょの血(ち)のあとをたどって行ったと。
 そしたら、山おんじょは山のてっぺんら辺(へん)の洞穴(ほらあな)の中で死んでいた。
 洞穴の中には兎(うさぎ)や鹿(しか)や猪の骨(ほね)が山のように捨(す)ててあった。
 狩人たちから取り上げた鉄砲も何丁(なんちょう)もあったと。
 
 正右衛門は、山おんじょを退治(たいじ)してから猪狩りの名人(めいじん)になった。生涯(しょうがい)に獲った猪の数は千にひとつ足(た)らない、九百九十九匹だったそうな。

  こりぎりの話。

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