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きつねにょうぼう
『狐女房』

― 新潟県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに一人の貧乏(びんぼう)な男があったと。
 ある日の晩方(ばんかた)、男が畑仕事をあがって、山道を帰っていたら、うしろでもうひとつ足音がして、それが山の畑のあたりから、ずうっとついてくるふうだ。気味悪くなってふりかえったら、いとしげな若(わか)い娘(むすめ)がにこっと微笑(ほほえ)んだと。

 
狐女房挿絵:近藤敏之


 
 「お、お前(め)ぇ、誰(だれ)だぁ。こんな山道になんでいるんだぁ」
 「おら、旅のもんだが、もう暗くなったすけ、今夜(こんにゃ)はお前(め)のどこに泊(と)めてもらいたいと思うて、あとをついてきた」
 「そうだったか。おらとこはおら一人で、ごっつおも無いが、それでいいけや(よかったら)泊まるがいい」
 娘は男と一緒(いっしょ)に帰って、泊めてもらった。

 次の朝になって、男は、娘が旅立っていくのかなと思っていたら、そんな気配はこれっぽっちもなくて、はきそうじにふきそうじ。洗濯(せんたく)に破(やぶ)れた着物のつくろいと、休む暇(ひま)も無いほど、くるくると働いてくれるのだと。そうやって、もう一晩泊まり、また一晩泊まりしたと。

 
 「お前、いく晩泊まっても旅立つふうでもないが、どういうつもりだ」
 「あい、お前はかかも無いげだが、おらをお前のかかにしてもらいたいが、どうだろう」
 「か、かか……にか」
 「あい」
 「かか…かぁ。おらとこは見たとおり、何にも無い貧乏者だ。ありがたいけど、かかにはできん」
 「なんでぇ」
 「お、お前みてぇないとしげな娘がおらのかかなんて、に、似(に)合わねぇ」
 「そんげなことは無(ね)ぇ、かかにして呉(く)れぇ」
 「ほ、ほんとにいいのか」
 「あい」
 「そうせば、かかになってくれや」
 こうして二人は夫婦(めおと)になったと。そして、そのうちに男の子が生まれた。


 その子が二つか三つになった頃(ころ)、ある朝早くに、男が、
 「おらは田んぼを打ちに行くすけ、お前は、後から子供を連れて、朝飯と昼飯を持って来てくれや」
というて、山へ仕事に出掛(でか)けたと。
 かかが男の子に着物(べべ)を着せ替(か)えさせていたら、
 「かか、しっぽ。かか、しっぽ」
とびっくりしていうた。
 
狐女房挿絵:近藤敏之

 
 かか、からだをじゃがませたひょうしに、つい尻尾(しっぽ)を出してしまったと。かかは、
 「おらが狐(きつね)だってことが判(わか)ってしもたすけ、もうこの家にはおられん。お前はここで、じっとしとれよ」
というて、山へ帰ってしもたと。
 一方、山では男がいくら待ってもかかが来ん。腹(はら)がへって家へ帰って来たと。子供が泣いているのに、かかがおらん。
 「かか、どこ行ったぁ」
ときいたら、
 「かか、しっぽあった」
というた。
 男はびっくりしたと。
 「そうか、かかは狐であったか」
というて、悲しんだと。
かかがいなくなった家んなかは、さっぷうけいで風が吹(ふ)いているみたいだと。
 それでも男は一人で田んぼ仕事をして、いよいよ明日は田植えをいう日になった。


 次の朝、男が子供を連れて田んぼへ行くと、かかが田植えをしながら田植唄(たうえうた)をうたっていたと。
 
狐女房挿絵:近藤敏之

 
 〽一本植えれば千本となり
  十本植えれば万本となる
  ひかずとも米となるように
  つかずとも白い米となるように
  穂(ほ)は出ずとも、ずっぱらめ
 
 男はうれしくて、うれしくてかけ寄(よ)った。かかは、元のかかの姿(すがた)でいてくれたと。田植えは、じきに終えた。
 かかはあぜに腰(こし)掛けながら、子供に乳を飲ませてくれた、飲ませ終えると、狐の姿(すがた)になって、泣き泣き山の中へ姿を消したと。


 秋になった。他の家々の田んぼではたわわに米がなったのに、男の田んぼにはやせこけた穂(ほ)がついているだけだ。役人と庄屋さんが田んぼの見廻(みまわ)りに来て、年貢(ねんぐ)を決めて行った。が、男の田んぼを見た役人は、年貢を免除(めんじょ)してくれたと。

 
狐女房挿絵:近藤敏之
 男は、少しでも米がないものか、と思うて、千歯(せんば)でこきおろしたら、穂ではなく茎(くき)から米が、ざんざらんと出てきた。
 どの稲もどの稲も茎に米がはらんであったと。
 その米で、男と子供は、楽々と暮(く)らせらそうな。
 これでいちごさけた どっぴん。
 
 

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