― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
昔、大分県野津市(のづいち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという、面白(おもしろ)い男がおったそうな。
とっさの時、心のはたらき方が面白いのだと。
ある時、吉四六さんが打綿(うちわた)を持って臼杵(うすき)の町へ売りに出たんだと。
が、めったに町へ出掛けなかったもので、道がよくわからん。困っていると、後ろの方から一人の壷売(つぼうり)が、
「ええ、壷はいらんなあ、ツボはいらんなあ」
と、大声でやって来た。
「よしよし、このツボ売りの後ろからついて行けば、間違いなく町を一巡(ひとめぐり)できるぞ。こりゃいいあんばいじゃ」
挿絵:かわさき えり
吉四六さん、何げない顔でツボ売りの後ろにまわった。
ツボ売りが大きな声で
「ツボはいらんなあ」
と、売り口上(こうじょう)をいうと、吉四六さんは、あとから、
「ええ、打綿、ウチワッタ―」
と、売り口上をいう。
「ツボはいらんな」
「え―、ウチワッタ―」
「ツボはいらんな」
はたから聞いていると、打ち割った壷、と聞こえるので町の人はクスクス笑って誰も相手にせん。
ツボ売りは、吉四六さんにお金を渡し帰ってもらった。
『こりゃ、商売するよりこっちの方がよっほど儲かるわい』
と喜んだ吉四六さん、次の日は、種売(たねう)りが通っているのを見つけ、そのあとから、古眼鏡(ふるめがね)を棒の先にくくりつけて、ついていった。
「種はいらんなあ」
と言うあとに続けて、
「え―、めがね―」
と妙(みょう)な売り声をあげる。
「種はいらんなあ」
「え―、めがね―」「種はいらんなあ」
芽が無い種と聞こえて誰も買い手が無い。
種売りもまた、吉四六さんにお金を渡して帰ってもらった。挿絵:かわさき えり
いよいよ味をしめた吉四六さん、その次の日は、魚屋さんの後ろから、フルイを持ってついて行った。
天秤棒をかついだ魚屋が威勢よく
「イワシ、イワシ、イワシはいらんなあ」
というと、あとから、
「ええ、フルイ、フルイ―」
と続ける。
「イワシ、イワシはいらんなあ」
「ええ、フルイ」「イワシはいらんなあ」
古いイワシと聞こえるもので、やっぱり買手が無い。
魚屋も吉四六さんにお金をやって帰ってもらったと。
吉四六さん、あしたは、何売りが通るか、待ち遠しくってしょうがなかったと。
むかしまっこう猿まっこ、猿のお尻はまっ赤いしょ。
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むかし、ある寺にとんち名人の一休さんという小僧がおった。 この一休さんには、物識り和尚さんもたじたじさせられておったと。 「一遍でもええから、一休をへこませてやりたいもんじゃ」 つねづねそう思っていた和尚さん、ある晩いい考えが浮かんだ。
「吉四六さんの物売り」のみんなの声
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