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きっちょむのかじそうどう
『吉四六の火事騒動』

― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔、豊後の国、今の大分県大野郡野津町(おおいたけんおおのぐんのづまち)大字野津市(のづいち)に吉四六さんという、とても面白い男がおったと。
 あるとき、吉四六さんの村で真夜中に火事があったと。
 村中寝静まっていて、気がついたのは、便所に起きた吉四六さんだけ。
 「こりゃ大事(おおごと)だ、庄屋さんに早いとこ報(し)らせにゃ」
 走り出そうとした吉四六さん、日頃庄屋さんに言われている言葉を思い出した。
 「こりゃ吉四六、お前はあわて者(もん)でいかん。走り出してから考えるのじゃなく、考えてから動きなさい」 

 
 「おっと、いかん、いかん。こういう時こそ落ちつかなくては。先ずは、カマドに火をつけて、それから湯を沸(わ)かして・・・と」
 吉四六さん、沸いた湯で顔を洗い、ついでに念いりにヒゲを剃った。
 「これだけではいかんな。庄屋さんは村一番の偉(えら)いお人じゃき、粗末な格好では失礼になる」
 長持ちから、古びた羽織袴を取り出して着込み、右手に白い扇(おうぎ)を持った。
 「だいたい、こんなもんでええじゃろか」 

 落ちついて、ゆっくりゆっくり庄屋さんの屋敷へ行き、雨戸の外から礼儀正しく声を掛けた。
 「ええ、お庄屋さま、ええ、お庄屋さま、ただいま火事でございまする」
と、ぼそぼそと言っていると、その声で目を覚ました庄屋さんが寝ぼけまなこで出て来た。
 「なんだ吉四六か、フワァ―、こんな真夜中にそんな格好をして、一体何事だね」
 「ええ、ただいま火事でございまする」
 「な、なに、いま何というた」
 「ええ、ただいま火事でございまする」
 いっぺんに目が覚(さ)めた庄屋さん、火事場にすっとんで行った。 

 その後ろから、吉四六さんもついて行く。
 「ありゃ、すっかり燃えてしもうた。
 こりゃ吉四六、夜中に火事がある時にゃ、大急ぎで戸をたたいて、大声で叫べ。ええか!!」
 「へへぇ―、わかりやした」

挿絵:かわさき えり
 

 さて、次の晩のこと、
 吉四六さんは、丸たん棒を持って庄屋さんの屋敷へ行った。
 「火事だあ、火事だあ!」
と叫びながら、丸たん棒で雨戸をドカン、ドカン、バリン、バリン。とっても楽しそうだと。
 「火事だあ、火事だあ」
 庄屋さん、びっくりしてとび起きて来た。
 「何だ、何だ、何ごとだ吉四六」
 「火事だ、火事だ」
 「わかった、わかった。そんなに叩くな、家が壊れる。で火事はどこな」
 それを見た吉四六さん、
 「庄屋さん、今度火事があったときにゃ、こんくらいのところでよろしいござんすか?」
と、すまして、こう言うたと。

 もしもし米ん団子、早う食わな冷ゆるど。 

 挿絵:かわさき えり
 

大分県
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