― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
むかし、むかし、
あるところに、爺(じい)さんと婆(ばあ)さんが住んでおったと。
家が貧乏(びんぼう)で、年取りの夜(よ)さになっても、一粒(ひとつぶ)の米がなかったと。爺さんが、
「婆さん、もう年取りの夜さじゃが、どんげして年をとろかい」
というたら、婆さんが、
「爺さん、雨の時かぶる“ばっちょ笠(がさ)”があったがよ。あれを町へ売りに行ったら」
と、いうた。
そこで爺さんはばっちょ笠を六つ持って、町へ出かけたと。
挿絵:かわさき えり
「ばっちょ笠はいらんかえ」
「ばっちょ笠はいらんかえ」
爺さんは、声を張(は)り上げて、売り歩いた。
が、年の暮れに、ばっちょ笠を買うような家はなかった。ひとつも売れなかったと。
だいたいばっちょ笠は夏のもので、寒い冬の師走(しわす)に買うものではないのだと。
爺さんが、とぼらとぼら村へ帰りよったら途中で雨が落ちはじめた。
村の入り口の辻(つじ)まで来たら、雨はザアザア降(ふ)ってきたと。
「ありゃりゃ、六地蔵(ろくじぞう)さんが雨にぬれちょる。もぞなぎいが(かわいそうに)」
爺さんは、そういって、売れなかったばっちょ笠を、ひとつ、ひとつ、六地蔵さんの頭にのせてやったと。
「ばあさん、いまじゃった」
爺さんが家に入ると、婆さんが、
「ばっちょ笠は売れたかいね」
と聞いた。
「なあに、今頃ばっちょ笠どん買う者(もん)がおろか。戻(もど)りに、六地蔵さんが雨にぬれちょったので、みんなかぶせてくれたが」
「そうかい、そうかい。爺さん、それはよいことをしてくだされた」
婆さん、気落(きお)ちするかと思いきや、喜んでくれたと。
その晩はからいもを焼いて食べ、寝(ね)たと。
そしたら夜中になって家の外で、
「ホーイ、ホーイ。
じいどん、じいどん。
地蔵の笠賃(かさちん)持ってきた。
地蔵の笠賃持ってきた。」
と、誰(だれ)かがおらんでいる声がする。
「爺さん、おもてで、なんか声がする」
婆さんと爺さんが耳を立てていると、おもての戸が、がらがらと開(あ)いて
「じいどん、じいどん。
地蔵の笠賃じゃ
地蔵の笠賃じゃ」
といいながら
じゃらじゃらじゃら
じゃらじゃらじゃら
いわして、金ぴかの小判を投げ込んだと。
「婆さん、婆さん、六地蔵さんが笠賃じゃげな」
爺さんと婆さんは、手をとりあって、楽しく年取りの夜さを越(こ)したと。
正直にゃ徳(とく)があるげな。徳は得じゃげな。
もしもし米ん団子、早う食わな冷ゆるど。
挿絵:かわさき えり
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むかし、むかし。あるところにおっ母さんと、太郎と次郎と三郎の三人の子供が暮らしておったと。あるとき、おっ母さんが山へ薪を拾いに行くと、山姥が出て来て、おっ母さんをベロッと食うてしもうた。
「大分県の笠地蔵・ばっちょ笠」のみんなの声
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