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きっちょむさんさざえをかう
『吉四六さんさざえを買う』

― 大分県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、大分県(おおいたけん)の野津市(のづいち)というところに、吉四六という知恵者(ちえもん)の男がおった。
 あるとき、吉四六さんが臼杵(うすき)の街(まち)を通りかかると、魚屋の店先に、十個(こ)ばかりのさざえがあるのが目にとまった。
吉四六さんさざえを買う挿絵:かわさき えり
 


 <おっ、うまそうなさざえがある。買(こ)うちゃろ……まてまて、ただ買(か)うのは面白(おもしろ)うないぞ。ちょこっとからかいついでに儲(もう)けちゃろ>
 胸(むね)のうちで、たちまちいい考(かんが)えがひらめいた吉四六さん、すっとぼけた顔で店の主人に、
 「こりゃあ初めて見るが、何ちゅうもんかな?」
とたずねた。
 店の主人は、
 <さざえを知らぬとは、たいした田舎者(いなかもん)じゃあ。しめしめ儲けちゃろ>
 「こりゃあ、さざえちゅうて珍(めずら)しい貝(かい)じゃ。値(ね)も高(たけ)えぞ」
と、法外(ほうがい)な値をつけた。


 「そげな珍しいもんなら、土産(みやげ)にしょう」
 吉四六さんは、五(いつ)つばかり手にとると、銭(ぜに)を払(はら)い、その場で火箸(ひばし)を借(か)りると、たちまち中味(なかみ)を抜(ぬ)き取(と)って捨(す)て、殻(から)だけを風呂敷(ふろしき)に包(つつ)んで帰って行った。
 <何と馬鹿(ばか)な男もおるもんじゃ。銭はもろうたし、中味は残(のこ)るし、こげなうまい商売(しょうばい)があろうか>
 魚屋の主人の喜(よろこ)ぶまいことか。次の朝になっても、一人ホッホーとほくそえんでいた。


 そしたら、また、吉四六さんがやって来て、今度は店にある二十個ばかりのさざえを全部(ぜんぶ)買い、昨日と同じ様(よう)に中味をくり抜いて殻だけを持って帰った。
 「笑(わら)いが止(と)まらんとはこのことじゃ。この分じゃあ明日も来るかも知れんて」
 魚屋の主人は、次の日、大量(たいりょう)のさざえを仕入(しい)れて待っとると、案(あん)にたがわず、吉四六さんがやって来た。
 <かああ、たまらん。またまた大儲けじゃ>
 魚屋の主人は、もみ手してむかえた。


 「ほう、今日はずい分たくさんあるのう。全部もらうから、うんとまけちょくれ」
 主人は、どうせ中味は残るのだから損(そん)は無(な)いと、吉四六さんの言い値で何百というさざえを売り渡(わた)した。
 「今日はさいわい馬を曳(ひ)いて来ちょるけん、中味をくり抜くまでもねえ。このまま持って帰ろう」
 「えっ、あの、その」
 あわてて、目を白黒させている魚屋の主人を尻目(しりめ)に、馬の荷籠(にかご)にさざえを積(つ)み込(こ)んだ吉四六さん、さっさとその場を退散(たいさん)した。
 魚屋のくやしがるまいことか。


 やがて、街々に吉四六さんのさざえ売りの声が、いい声で響(ひび)いたと。
 〽 ええー、さざえの安売(やすう)り
 〽 さざえは いらんなあ
 
吉四六さんさざえを買う挿絵:かわさき えり

大分県
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