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たびのくすりや
『旅の薬屋』

― 大分県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに富山(とやま)の薬屋があった。
 富山の薬屋は全国各地に出かけて行って、家々に置き薬していた。一年に一回か二回やって来て、使った薬の分だけ代金を受け取り、必要(いり)そうな薬を箱に入れておく。家の子供(こども)は富山の薬屋がくれる紙風船を楽しみにしていたもんだ。
 その富山の薬屋が、あるとき山の峠(とうげ)を越(こ)していたら日が暮(く)れたと。


 道端(みちばた)の木の切株(きりかぶ)に腰(こし)かけて夜の明けるのを待っていたら、谷で猿(さる)が「キャッキャッ」とないた。その声がただごとではないふうなので行ってみたら、猿がお産をしていた。難産(なんざん)で母猿が苦しんでいる。
 
旅の薬屋挿絵:かわさき えり


 男猿が薬屋に手を合わしたと。薬屋は、背負うているこうりを開けて、
「これはお産が軽うなる薬だ。これをのませるといい」
というて男猿にやったと。
 男猿は川の水を口にふくんできて、薬を母猿に飲ませたら、間もなく子が産まれたと。
 「よかったなぁ」
というて、薬屋が行こうとしたら、男猿が何だか知らんが冷たいものを袂(たもと)に入れてくれた。
 薬屋はいいことしたと思うて気が大きくなり、この山の峠を歩いて行ったと。そしたら、森の中にペカーって火明りが見えた。小屋だった。白髪(しらが)のお爺(じい)さんが小屋の中にいた。薬屋が、
 「今晩(こんばん)、ここへ泊(と)めておくれませんか」
というたら、お爺さんは何も言わずにうなずいたと。


 薬屋が囲炉裏端(いろりばた)で手枕(てまくら)して横になり、うつらうつらしていたら、大きな蛇(へび)が這(は)ってきて、薬屋を呑(の)み込(こ)もうと口を開けた。
 夢うつつながら何となく気配を感じて何かを投げつけようとしたが、何も無かった。そういえば猿が袂にいれてくれたものがあったなぁ、と思い出し、それをつかんで投げたと。投げつけて、また眠(ねむ)ったと。


 夜が明けて起きた薬屋はびっくりした。
 眠っていたすぐそばに、からだが溶(と)けかかった、死んだ大蛇(だいじゃ)が横たわっておった。
 猿が袂に入れてくれた冷たいものはなめくじだったと。
 
旅の薬屋挿絵:かわさき えり


 猿は先のことが見えるというから、薬屋が蛇におそわれるのを見こしてなめくじを入れたのだそうな。
 小屋は、大きな樟(くす)の木だった。樟の木は化けるから家に使うものではないと、昔の人はいうたもんだ。
 
 むかしまっこ猿まっこ、猿のお尻は真っ赤いしょ。

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