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きもだめし
『肝だめし』

― 島根県 ―
再話 大島 廣志
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 ある夏の夜のこと、十人近い子どもたちが肝だめしをやろうと大きなお寺の前に集まった。
 「なんだかお化けが出そうだなぁー」
 「平気、平気、お化けなんか出るわけないよ」
 「でも、やっぱり、こわいなぁー」
 子どもたちは、わいわいがやがやさわいでいた。全員あつまったところで一番年上の男の子が言った。
 「さぁ、肝だめしをはじめよう」
みんなは静かになった。


 「お寺の本堂(ほんどう)のうらにお墓(はか)があるだろう。お墓とお墓の間をずっと行った一番奥(おく)のお墓は、きのうお骨(こつ)をうめたばかりなんだ。さっきそのお墓の前に、みんなから集めたお小づかいを缶(かん)に入れておいてきた。最初にそこに行ったものが全部もらえるんだ。それじゃあ、くじ引きで順番をきめよう」

 子供たちはみんな自分が一番になりたいのだが、一人で行くにはちょっとこわい。
なにしろこの寺の墓地は昼間でもうす暗く、気味が悪い。
そこへ青白い顔をして、背中に赤ん坊(ぼう)をおぶった一人の女があらわれた。


 「ねぇ、ボクたち。今そこで聞いていたんだけど、おばさんも肝だめしの仲間に入れてくれない。この赤ん坊のミルクがほしいの」
 女がか細い声でいった。子どもたちはなんだかかわいそうになって、女を肝だめしに加えてやることにした。そして、みんなでくじを引いたら、その女が一番くじを引きあてた。女は、
 「一番奥のお墓の前にお金があるのね」
とうれしそうにいった。年上の男の子は、
 「おばさん。何かあるといけないから、これをもって行きなよ」
と、ロウソクと草刈(か)り鎌(がま)をわたした。


肝だめし挿絵:かわさき えり
 
女は、ロウソクのあかりで足もとをたしかめながら、草刈り鎌を手に墓地(ぼち)の道を奥へ奥へと進んで行った。そして、とうとう一番奥のお墓についた。お墓の前には、たしかに缶があった。女は缶を手にとった。ずしりと重い。


 「ああ、よかった。これでミルクが買える」
 女が帰ろうと振(ふ)り返ったとたん、首すじに何かつめたいものがさわった。おそろしくなった女は走り出した。すると今度は、髪(かみ)の毛がおもいっきりうしろに引っぱられた。
 「ギャー」
 女はさけぶと、もっていた鎌をうしろに力いっぱいふりおろした。
 「ザクッ」
と音がした。
女は、一目散(いちもくさん)にかけ出し、子どもたちのいるところへもどってきた。息をはずませながら、
 「さぁ、缶をとってきたよ。本当にもらっていいのね」
というと、クルリと背を向けて歩きだした。子どもたちは、いっせいに、
 「アー」
と声をあげた。


肝だめし挿絵:かわさき えり
年上の男の子は、ブルブルふるえながら、
 「おばさん、背中がまっかだよ。どうしたの」
といった。女がふりむいて自分の背中をみると、おぶっていた赤ん坊の首がなかったと。
 
 おしまい。

島根県
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