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しょうじきじいとこいぬ
『正直爺と仔犬』

― 島根県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかしあったげな。
 正直爺(しょうじきじい)と欲深爺(よくふかじい)とがあったげな。
 あるとき、正直爺が山でタキギを拾うていたら、仔犬が穴にはまって出られないでいた。
 「ありゃ、お前(め)どこの犬だ。どうやってこんなところへいたや」
というて、仔犬をすくい出し、家に連れ帰って、かわいがったと。


 仔犬は、正直爺のお供で毎日山歩きしているうちに、たくましい犬になったと。
 いつものように正直爺がタキギを拾うていたら、犬の姿が見えんようになった。
 「ほーうい、どこ行ったぁ、ハーキハキー」
と叫んだら、犬は山鳥(やまどり)をくわえて戻って来た。
 町へ行ったら、山鳥はタキギより高く売れたと。


 あるひ、正直爺が山の登り口で石に腰(こし)かけ、犬に
 「爺な、今日は山へ入(はい)れん。昨夜(ゆんべ)、腰を痛めてしもうた。タキギを拾えんから、お前(め)、すまねぇが、鳥を捕(と)らえてきてくれんかや」
と語りかけた。すると、犬は、「ワン」とうれしそうに吠(ほ)えた。
 
正直爺と仔犬挿絵:福本隆男


 正直爺が、
 「左の谷(たあに)、ハーキハキ」
と言うたら、犬は左の谷の奥へ駈(か)けて行き、すぐにキジをくわえてきた。
 「右の谷(たあに)、ハーキハキ」
と言うたら、犬は右の谷の奥へ駈けて行き、すぐに山鳥をくわえてきた。
 「中の谷(たあに)、ハーキハキ」
と言うたら、犬は中の谷の奥へ駈けて行き、今度は兎(うさぎ)をくわえてきた。
 それを町へ売りに行ったら、いい値段(ねだん)で売れたと。


 それからは、毎日、
 「左の谷(たあに)、ハーキハキ」
 「右の谷(たあに)、ハーキハキ」
 「中の谷(たあに)、ハーキハキ」
と言うて、犬がくわえてきた獲物(えもの)を町へ売りに行ったと。
 正直爺は、だんだんにお金持ちになったと。
 そしたら、欲深爺が、
 「お前んとこは、えらい金持ちになったみてえだが、どげしてなりおったや」
と聞いた。


 「いやあ、うちの犬のおかげだ。おれはただの山の入口に腰かけて、
 「左の谷(たあに)、ハーキハキ」
 「右の谷(たあに)、ハーキハキ」
 「中の谷(たあに)、ハーキハキ」
と、言うてるだけだや。そしたら犬が鳥やら兎やら、くわえてきてくれる。それを売っていたら、段々にこうなっただけだ」
 「ほうか、ほんなら、その犬、おれに貸(か)してごさい」
 「貸してもいいけど、お前のいうこときくかな」
 「なに、お前の言うこときくなら、おれの言うこと、もっときくさ」
 「ほんなら、連れてってごさい」


 欲深爺、犬を借りて、山の登り口まで行ったと。
 「左の谷(たあに)、ハーキハキ」
と言うたら、犬は欲深爺の左のひざっこ、ガンジリ噛(か)んだ。
 「いや、こんな奴(やつ)め」
と言い、
 「右の谷(たあに)、ハーキハキ」
と言うたら、犬は右のひざっこ、ガンジリ噛んだ。
 「痛てじゃ、こんな奴め、下道畜生(げどうちくしょう)めがぁ」
と怒(おこ)って、
 「中の谷(たあに)、ハーキハキ」
と言うたら、今度は金玉(きんたま)、ガアンジリ噛んだ。
 欲深爺、ぐるうんと目ぇむいて死んだと。
 人をうらやんで真似(まね)すると、こうなると。
 
 こっぽし。

「正直爺と仔犬」のみんなの声

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驚き

意外とストレートな表現で驚きました。現在は、助け合いの思考性が高まるなか このしうちは、あんまりだなぁ  欲張りは、 誰でもあることなのに、死においやるないようは残酷です しかし、自分の身の丈にあった状況を知ることは大事で 同じ事をしても必ずしも同じ結果が得られるわけではないことがわかります 正直爺は、優しいようで意外と 十分な情報を欲張り爺に提供したのでしょうか? とりあえず、よくばると 身を滅ぼすこともあることを きもに、命じて( 60代 / 女性 )

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