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へびむすこ
『蛇息子』

― 静岡県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんとが暮(く)らしてあった。
 爺さんと婆さんには子供(ども)がなかった。
 二人はことある毎(ごと)に「子供が欲(ほ)しい、子供が欲しい」と言うていたと。

 ある日、爺さんが山へ芝刈(しばか)りに行き、婆さんは川に洗濯(せんたく)に行ったと。
 婆さんが着物の裾(すそ)をまくって洗濯をしていたら、蛇(へび)が婆さんの股(また)ぐら、ニョロっとなでてから、川を流れて行ったと。


 それからしばらく経(た)って、婆さんが、
 「爺さんや、わしゃ腹(はら)がこう、こんなにでっかくなったが、どうしてかのう」
と言うたら、爺さんは、
 「どうしてかわからんが、わしらが『子供が欲しい、子供が欲しい』と言うていたんで、神さまが授(さず)けて下さったんじゃろ」
と言うた。
 「そうじゃろか」「そうじゃ」
と言いあって、ふたりは喜んだと。

 
蛇息子挿絵:かわさき えり

 やがて、月満ちて生まれたと。
 生まれはしたが、生まれたのは人間の赤ん坊(ぼう)ではなくて、蛇だったと。
 爺さんと婆さんはびっくりしたが、
 「これも授かりものじゃ」
と言うて、その蛇に「シズオ」と名前をつけて、大事に大事に育てたと。


 蛇息子のシズオはだんだんでっかくなって、とぐろを巻(ま)いても一部屋ふさがる位に育ったと。
 爺さんと婆さん、
 「こんなにでっかくなったんじゃ、わしらじゃ育てきれんなぁ」
 「ほんとじゃなぁ」
 「どうじゃろ、山へ置いてきまいか」
 「シズオにとっても、それが一番ええなぁ」
と話合うて、二人して蛇息子のシズオを山に連れて行ったと。


 「シズオよ、今までお前を我(わ)が子として可愛(かわい)がってきたが、このまま家にいれば、いつ人様の目にとまらんとも限(かぎ)らない。そうなればお前もわしらも、何事も無く暮らすというわけにはいかなくなる。危害(きがい)をなそうとする人様もでてくるじゃろ。そうなってからじゃあ、とうていお前を護(まも)りきれん。この山は奥(おく)が深い。人目に触(ふ)れないでいることも出来る。お前の食べるものもたくさん居(い)る。だから、お前は、この山の中で無事に育っておくれ」

 
蛇息子挿絵:かわさき えり
 
「爺(じじ)の言う通りじゃ。仕方ないんじゃ、シズオよ。わしらを恨(うら)まんでおくれ。この山で元気に暮らしておくれ」
 こう因果(いんが)を含(ふく)めて帰ってきたと。


 それから幾(いく)年か経った頃(ころ)、その山で、行方不明になる人が出てきた。なんでも、その山を通ると、でっかい蛇が出て、喰(く)い殺されるのだそうな。
 このうわさは爺さんと婆さんの耳にもとどき、ふたりは、それはシズオの仕業(しわざ)だろうと思うた。
 このうわさは、殿(との)様の耳にも入った。
 殿さまはその蛇を殺して首を獲(と)って来た者には千両与(あた)える、というお布令(ふれ)を出した。


 爺さんと婆さんは、
 「シズオは、いずれ誰(だれ)かに殺されるじゃろ。どうせ殺されるなら、他人の手にかかるより、わしらの手でほうむってやらんか」
 「そうじゃねぇ。もし、まちがってふたりが喰い殺されたとしても、我が子であればそれも仕方ない。なぁ爺さん」
 「そうじゃ」
と言うて、ふたりして山に行ったと。


 「シズオやぁ」
 「シズオやぁ」
と呼(よ)びながら、山の奥へ奥へと分け入ると、沼(ぬま)のほとりで大っきな、大っきな蛇がとぐろを巻いて、爺さんと婆さんの方を見ていたと。
 「おお、シズオやぁ」
 「シズオやぁ」
と言うて、ふたりは思わずかけ寄(よ)った。蛇息子のシズオも懐(なつ)かしそうに頭を持ち上げてゆすったと。爺さんが、
 「シズオや、今日、わしたちが来たのはな懐かしむためではないんじゃ。実はの、お殿様が、お前の首を獲ったものには、千両ほうびを授ける、というお布令を出したんじゃぁ。


 じきに、たくさんの者がお前を殺しに来るじゃろう。いずれ、お前は必ず殺されるのじゃろ。逃(に)げ切れるものなら、どこか遠くへ行って、ひっそりと暮らせ。それとも、何人もの人を喰うたお前だ。人の味が忘(わす)れられないで、また、人を襲(おそ)うか。そうであるなら、せめてわしらに殺されてくれ。それがいやなら、今ここで、お前を生んだこの婆と、育てたこの爺を喰うていけ」
というたら、婆さんは、泣きながら、
 「シズオやぁ、シズオやぁ」
というて、両手を延(の)べた。


 すると蛇息子のシズオも、婆さんの両手に抱(だ)かれるように首を差し延べてきた。
 爺さんと婆さん、シズオの首に抱きつきながら、
 「わしらの言うことがわかったのか。わしらにお前の首をとってくれというのか」
と言うたら、蛇息子のシズオ、うなずいたと。
 爺さんは泣く泣くシズオの首を切断(きっ)たと。
 首を殿様に差し出したら、ほめられて千両戴(いただ)いたと。
 爺さんと婆さん、シズオの供養(くよう)しながら、安楽に暮らしたと。

 
蛇息子挿絵:かわさき えり

 昔の人がよく言う、
 「野にも山にも子は置き捨(す)てんな、価千金(あたいせんきん) 子は宝(たから)」
とは、この話から出た言葉だそうな。
 
 それでいちがさかえた。
 
 

「蛇息子」のみんなの声

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