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ままくわぬにょうぼう
『飯食わぬ女房』

― 山形県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 とんと昔、あったけど。
 昔、あるところに一人の貧乏(びんぼう)な若者がおったと。
 ある日、若者は、玄関先(げんかんさき)で、
 「嫁(よめ)が欲しい。けど俺(おれ)どこは貧(まず)しいさげ、俺一口(ひとくち)は食えるけど、二口(ふたくち)はどもならん」
と、独(ひと)り言(ごと)を言うたと。


 そしたら、その晩(ばん)、きれいな姉様(あねさま)が訪ねて来て、
 「お晩(ばん)でござります。オラ、飯(まま)の食わね姉コだす。いっちょ、嫁にして呉(く)さえっちゃ」
というたと。
 
飯食わぬ女房挿絵:福本隆男


 「飯くわぬ姉コなら、いいべ」
というて、女房にしたと。
 その姉様は、何日たっても、飯一口、お汁(つけ)一(ひと)すすりもしないのに、まめでクルクル働(はたら)くのだと。
 「ええ女房もろた」
いうて、若者は喜(よろこ)んでいたと。
 ところが、おかしなことに、米だの、味噌(みそ)だの、そんなに使(つか)わないはずなのに、どんどん減(へ)って行く。 若者は不思議(ふしぎ)に思って、ある日、いつものように山へ芝刈(しばか)りに行くふりをして、こっそり家に戻り、天井裏(てんじょううら)に隠れて、女房のすることを見ることにしたと。
 そうとは知らない女房は、火をどんどん焚(た)いて、大釜(おおがま)架(か)けて、米を炊(た)き、別の鍋(なべ)に味噌汁(みそしる)いっぱい煮(に)たと。
 ご飯(はん)がたけ、味噌汁も煮えたら、女房(にょうぼう)は頭の髪(かみ)の毛をバラリ解(と)いた。


 そしたら何と、頭のてっぺんに大っきな口が、パックリ開(あ)いたと。
 それへ、握(にぎ)り飯(めし)一つ入れては、味噌汁一杯入(い)れる。握り飯一つ、味噌汁一杯。握り飯一つ、味噌汁一杯と、みな投げ込んでから、髪の毛を元のように結って、口を隠したと。
 天井裏でみていた若者は、びっくりして、血の気ツワツワ、体ガタガタふるわして、逃(に)げ出したと。
 気がついた女房は、
 「見だな、見だなァ」
と叫(さけ)んで、大っきな桶(おけ)担(かつ)いで追いかけて来たと。追っかけながら、頭に角がニョッキと植(は)え、指には爪(つめ)がジャッキンと出て、女房は鬼(おに)になったと。

 
飯食わぬ女房挿絵:福本隆男

 若者は直(す)ぐにつかまって、桶に入れられたと。
 鬼女房は、それを担いで山の奥へ奥へと分け入って行くのだと。


 桶の中で若者が、
 「喰(く)われるんだべか」
と案(あん)じていたら、木の枝が桶の縁(へり)をさわったと。思わずそれをつかんで、枝をつたって逃げたと。
 鬼女房は、山を二つも三つも越(こ)してから、桶が軽くなったことに気づいた。


 また、どがすか追いかけて来たと。すんごい勢(いきお)いだと。
 追っかけられて、追っかけられて、今にもとんがった爪が届きそうなぐらいに迫(せま)って、若者は思わず、川っ端(ぱた)におがっていた菖蒲(しょうぶ)と蓬(よもぎ)の茂(しげ)みに潜(もぐ)ったと。
 
飯食わぬ女房挿絵:福本隆男


 そしたら鬼女房は、
 「口惜(くや)すや、くやすや、オラには菖蒲と蓬が一番毒(どく)だちゃ。臭(にお)いをかいだだけで体が腐れる。恐(おっか)ね、おっかね」
と叫(さけ)んで、手え出しかねて、山の奥(おく)へ逃(に)げて行ったと。
 それから、五月節句(ごがつせっく)には、魔除(まよ)けの菖蒲と蓬の草を使うようになったんだと。
 
 ドンビン サンスケ。

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飯食わぬ女房(ままくわぬにょうぼう)

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